「福島第一原子力発電所“ALPS処理水”の海洋放出に係る放射線影響評価結果」が公表される

ブログ 原子力

全国的に新規感染者数が落ち着いている新型コロナウイルスですが、ワクチン接種率でも日本が世界のトップに立ったとの報道もあり、日本人の協調性気質が大いにプラスに表れているのではと感じるところ。
 
今でこそ対処療法が掴めつつありますが、国内での感染が確認された当初は、未知の感染症であるが故、大変な風評被害や誹謗中傷があったことを思い出します。
 
「風評被害」とは、辞書を引くと”根拠のない噂のために受ける被害。特に、事件や事故が発生した際、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが受ける損害のこと”を意味しますが、この言葉で一番に思い浮かぶのは、福島第一原子力発電所の多核種除去設備等処理水(ALPS処理水※)の件。
 
※私はこれまで、以前に原子力規制委員長も仰っていた「処理済水」と標記してきましたが、ここでは東京電力ホールディングスが用いている「処理水」と記載します。多核種除去設備等で浄化処理した水(トリチウムを除く告示濃度比総和1未満)であり、「汚染水」でないことだけはご理解ください。
 
このALPS処理水の取り扱いに関しては、評価の結果、最も適した手法とされる「海洋放出」に向け、「風評被害」(漁業関係者を始め、国内外の関係者に対し)を払拭していくことが最も重要なことであり、政府の「福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」決定(2021年4月)以降、風評影響を最大限抑制するための対応を徹底するべく、安全確保のための設備の設計や運用等について検討の具体化を進め、本年8月に設備の具体的な設計及び運用等の検討状況等について示されたところです。
 
また、IAEAなど国際機関とも連携のうえ、科学的に検証、説明していくための作業が続けられているところ、昨日17日、東京電力ホールディングスは、国際的に認知された手法に従って定めた評価手法を用いて、ALPS処理水の海洋放出に係る人および環境への放射線の影響評価(設計段階)を実施し、取りまとめたとのことで同社のホームページにも掲載されました。
 
結論から申し上げると、評価結果は、線量限度や線量目標値、また国際機関が提唱する生物種ごとに定められた値を大幅に下回る結果となり、人および環境への影響は極めて軽微であることを確認したとのこと。
 
詳細は、ホームページ掲載の資料をご覧いただくのが一番ですので以下リンクさせていただきますが、分かりやすい動画でも説明されていますので是非ご覧になっていただければと思います。
 
→→→福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)の海洋放出に係る放射線影響評価(設計段階)について【2021年11月17日 東京電力ホールディングス】
 
この報告の中であった、結果のポイントだけ記載しますと次の通りとなります。
 
【多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)の海洋放出に 係る放射線影響評価結果(設計段階)について】・・・東京電力HD資料より抜粋
 
◉海洋における拡散シミュレーション結果
2019年の気象・海象データを使って評価した結果、現状の周辺海域の海水に含まれる トリチウム濃度(0.1〜1ベクレル/リットル※)よりも濃度が高くなると評価された範囲は、発電所周辺の2〜3kmの範囲に留まる。
※WHO飲料水ガイドライン10,000ベクレル/リットルの10万分の1〜1万分の1
 
◉海洋における拡散シミュレーション結果(トンネル出口周辺)
拡散する前のトンネル出口の直上付近では、30ベクレル/リットル程度を示す箇所も見られるが、その周辺で速やかに濃度が低下。
なお、トンネル出口の直上付近に見られる30ベクレル/リットルであっても、ICRPの勧告に沿って定められている国内の規制基準(6万ベクレル/リットル)やWHO飲料水ガイドライン(1万ベクレル/リットル)を大幅に下回る。
 
◉人への被ばく評価結果(設計段階、①64核種の実測値による評価)
①64核種の実測値による評価結果は、海産物を平均的に摂取する人(一般の方が相当)では一般公衆の線量限度(年間1ミリシーベルト)の約6万分の1〜約1万分の1、自然放射線による被ばく(年間2.1ミリシーベルト)との比較では約12万分の1〜約2万分の1
 

 
◉人の被ばく評価結果(設計段階、②仮想したALPS処理水による評価)
②被ばくの影響が相対的に大きい核種だけが含まれると仮想したALPS処理水を用いて非常に保守的に評価した場合でも、一般公衆の線量限度(年間1ミリシーベルト)の約2,000分の1〜約500分の1、自然放射線による被ばく(年間2.1ミリシーベルト)との比較では約4,000分の1〜約1,000分の1。
 
◉動植物の被ばく評価結果(設計段階、①64核種の実測値による評価)
①64核種の実測値による評価結果は、評価上の基準である誘導考慮参考レベル*(扁平魚1〜10ミリグレイ**/日、カニ10〜100ミリグレイ/日、褐藻1〜10ミリグレイ/日)の下限値に対して約6万分の1〜約2万分の1(カニでは約60万分の1〜約20万分の1)
 

 
◉動植物の被ばく評価結果(設計段階、②仮想したALPS処理水による評価)
②被ばくの影響が相対的に大きい核種だけが含まれると仮想したALPS処理水を用いて非常に保守的に評価した場合でも、評価上の基準である誘導考慮参考レベル*(扁平魚1〜10ミリグレイ/日、カニ10〜100ミリグレイ/日、褐藻1〜10ミリグレイ/日)の約130分の1〜約120分の1程度(カニでは約1,300分の1~約1,200分の1)
 
このように、一般公衆の線量限度や各種基準に照らしても桁違いに低いことがお分かりいただけると思います。
 
東京電力ホールディングスにおいては、今回取りまとめた報告書について、更なる充実のため、幅広く意見を募集したうえで、今後、原子力規制委員会による実施計画の認可取得に向けて必要な手続きを行うとともに、IAEAの専門家等のレビュー、各方面からの意見やレビュー等を通じて評価を見直していくとしています。
 
冒頭の「風評被害」に戻れば、まずはこのような評価結果を正しく透明性をもって発信(報道含む)すること、そして国民理解のもと国内外の懸念を払拭していくことが何よりも重要なことであることは言うまでもありません。
 
日本のコロナワクチン接種率の高さは、副反応の影響を正しくご理解のうえご協力いただけた方が多かったことの表れであるとも言えますが、この海洋放出に関しても、こうした「科学的データ」をもってご理解いただけますよう宜しくお願いいたします。
 
※(参考)ALPS処理水海洋放出に向けた安全設備の全体像