電気代が高い理由はみんな「亡国のエコ」のせい

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2023年1月から9月にかけて、電気代と都市ガス料金を値下げする経済産業省の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」。
 
電気代の値下げ額は一般家庭向けで1kWhあたり7円、企業向けの値下げ額は3.5円ですが、高騰を続ける電気代に苦しむ家庭・企業にとっては大変有効なこと。
 
オール電化住宅の我が家も然り、元々、冬場の電気代が高いこともあって、この冬は蓄熱暖房の使用を2台から1台に、お風呂の保温を長時間しないなどの節電効果ともあいまって、3月の請求分はやや落ち着いたところです。
 
以前にもご紹介した通り、この「電気代値下げ」は国民民主党が一早く提案し、政府が取り入れたものですが、この4月以降の値上げも視野に、同党は更なる値下げ策の必要性を主張しており、物価高騰対策を含めた今後の政府の対応に注視する次第です。
 
さて、この電気料金高騰に関しては、ロシアのウクライナ侵略に起因したものと思われている方が多いかと思いますが、これをみな、「亡国のエコのせい」と3つの要因を挙げられた方がいましたのでご紹介します。
 
その方とは、キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹。
 
杉山氏によれば、電気代が高騰している。この理由は3つで、①反原子力、②再エネ推進、③脱炭素。
 
以下、杉山氏の意見を抜粋掲載します(一部、表記修正)。
 
【理由1】原子力の停止
 
原子力発電を運転すれば電気代は下がる。図1は、原子力比率(=供給される全電力に占める原子力発電の割合)と家庭用電気料金の関係を示したもの。原子力比率の高い九州、関西は電気料金が低いことが分かる。
東日本大震災から10年以上経過したが、いまだに、日本は多くの原子力を動かせないでいる。
 

【図1:原子力比率は平成21年度のもの。データ出所は以下リンク(関西電力、四国電力、九州電力)。家庭用電気料金は日経新聞調べの標準家庭の規制料金(2023年6月)】
 
【理由2】再エネの大量導入
 
太陽光発電などの再生可能エネルギーの大量導入によって電気代は上がった。再生可能エネルギー賦課金の推移では、2021年度の賦課金総額は2.7兆円であり、一人あたり年間2万円、3人家族なら6万円になる。月額873円とあるのは年間約1万円でこれが平均的な家庭の直接の負担額。残り5万円は企業の負担になっていて、その分、物価が上がったり給料が減ったりしている。
 
【理由3】天然ガスの高騰
 
欧州の脱炭素政策は大失敗した。天然ガスを筆頭にロシアのエネルギー頼みとなった。この足下をみたプーチンは欧州の経済制裁などたかが知れていると見てウクライナに侵攻した。欧州がエネルギーで脆弱性を作りだしたことが戦争を招く大きな要因になったのだ。
欧州は(プーチンの予想には反して)ロシアからのエネルギー購入を止めたが、代わりに世界中からエネルギーを買い漁って、天然ガス、石油、石炭の何れの価格も暴騰した。
過去数年、脱炭素のためとして、世界的に化石燃料の採掘事業が停滞していたことも、価格暴騰に大いに拍車をかけた。
この煽りで日本の主要な発電燃料である液化天然ガス(LNG)価格も高くなった。欧州(TTF)、東アジア(JKM)のスポット価格に比べればそれでも安いが、これは長期契約を結んでいたおかげで、じつは電力会社のファインプレーだ。
 
そして最後にこう結んでいます。
 
「以上のように、いまの電気代高騰は、反原子力、再エネ推進、脱炭素といった、「エコな」政策のせいだ。これを変えない限り、また同じことが起きるのは必定だ。最近、原子力政策には変化がみられる。しかし政府は相変わらず脱炭素、再エネ最優先に邁進している。電気代はどこまで上がるのだろうか。
 
私も杉山氏の懸念に同感であり、本質を突いたこうした要因分析がまったくといっていいほど報じられないのは何故なのか(特に原子力比率と電気料金の関係)。
 
報道もさることながら、やはり「再エネ主力の電源化」を謳っている、現行のエネルギー基本計画は見直すべきと考える次第。

「GX脱炭素電源法」が国会に提出される

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一昨日の全体会に続き、昨日は予算決算常任委員会(分科会)を開催。
 
令和5年度当初予算案の各議案について、3つの分科会に分かれての審査を行いました。
 
私が所属する産経建設分科会では、所管する水道部、産業経済部、観光部、建設部、都市整備部に対し、順次質疑。
 
終わってみれば、一番遅くまで審査をしてましたが、審査の結果は、3月16日に開催される予算決算常任委員会(全体会)にて報告することとなっておりますので、以降、正副分科会長で論点を絞って取りまとめていきたいと思います。
 
さて、2月28日のことになりますが、政府はエネルギー関連の5つの法改正案を閣議決定し、これらをまとめた束ね法案「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」(GX脱炭素電源法)として、今通常国会に提出しました。
 

【GX脱炭素電源法の概要(内閣官房発表資料より)】
 
GX脱炭素電源法のうち、とりわけ原子力に関しては、以下の4法案が柱となっています。
 
◉原子力発電の利用に係る原則の明確化(原子力基本法)
◉高経年化した原子炉に対する規制の厳格化(原子炉等規制法)
◉原子力発電の運転期間に関する規律の整備(電気事業法)
◉円滑かつ着実な廃炉の推進(再処理等拠出金法)
 
原子力基本法の改正では、安全最優先、原子力利用の価値を明確化したほか、運転期間については、原子炉等規制法から電気事業法に移され、経済産業相の認可を受けた場合に限り延長を認め、「延長しようとする期間が20年を超える」場合は、事業者が予見しがたい事由(東日本大震災以降の安全規制に係る制度・運用の変更、司法判断など)に限定して運転期間のカウントから除外することで、実質的に60年超運転を可能とするとされました。
 
なお、運転期間に関しては、経産省資源エネルギー庁の遠藤原子力政策課長が記者会見で、「明らかに電力会社側に責任があって停止している期間は、追加延長の期間には入れない」と説明のうえ、テロ対策の不備で規制委員会から事実上の運転禁止命令を受けている東京電力柏崎刈羽(新潟県)は、命令中の期間分は追加延長に加算しない、日本原電の敦賀2号機に関しては、「ケース・バイ・ケースで判断する」と、追加延長の基準についてあいまいな説明に終始したとあります。
 
法案で明記はしたものの、停止している理由によって、除外するしないか判断するとあっては、これまた「非科学的」と思わざるを得ない訳ですが、果たしてペナルティ意味合いの強い、この条件は必要なのでしょうか。
 
なお、今後判断するのは、独立性の高い原子力規制委員会ではなく、利用施策側の経済産業省となりますが、逆に世論や政治の意向に左右されやすくなるのではと、別の意味で危惧するところ。
 
本件については特に、敦賀2号機を例に挙げて話しがあったものでもあり、重要なポイントかと思いますので、今後の国会での法案審議に注視するとともに、あいまいな状態とならないよう、あくまでも「科学的」な考えを根拠に制度化されるよう求める次第です。

「鶴の一声」でずれ込む規制料金引き上げ時期

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昨日の敦賀市議会は、今年度補正予算案審査のため予算決算常任委員会を開催。
 
全体会での基本質疑に続き、各分科会に分かれての審査を行いました。
 
来週28日からは、令和5年度当初予算(骨格)の審査に入りますが、引き続き丁寧に対応してまいります。
 
さて、昨日審査した補正予算にも、物価高騰を踏まえた補助に関する事業がいくつか含まれていましたが、総務省が24日に発表した1月の全国消費者物価指数(2020年=100、生鮮食品を除く)は、前年同月比4.2%上昇の104.3となり、1981年9月以来、41年4ヶ月ぶりの高水準になったとのこと。
 
止まらない物価高騰が国民生活に影響を与えるなか、気になるのは、現在、各労使間で交渉中の春闘。
 
こうした高水準の物価高に賃上げが追従しなければ、結果「実質賃金」は下がるばかりであり、ひいては消費が冷え込むばかりか、少子化対策や高齢者の年金受給額などにも影響する、日本の根幹にある問題の解決につながらないものと考えます。
 
トヨタやホンダなどが既に、賃上げの機運を作るべく満額回答の方向となっていることも踏まえ、各産業の経営側には是非ともの英断をお願いする次第です。
 
そうしたなか、何とも納得のいかない話しが。
 
東北、北陸、中国、四国、沖縄の電力大手5社が経済産業省に申請した家庭向け規制料金の引き上げ時期が、4月から5月以降にずれ込む見通しであることが24日、分かったとのこと。
 
岸田首相が昨日午前の「物価・賃金・生活総合対策本部」で、「4月(実施)という日程ありきではなく、厳格かつ丁寧な査定による審査を行ってほしい」と西村経産相に指示したことを受け、経産省は各社による燃料費の見積もりや経営効率化に向けた取り組みを厳格に審査するための十分な期間を確保するとありましたが、これは、旧一般電気事業者(旧一電)の経営を「真綿で首を絞める」ようなこと。
 
電力各社は、これまでも燃料調整費上限に達するなかで、ギリギリの経営を続けてきており、もう限界の状況で行った値上げ申請に対し、「鶴の一声」で先延ばしされるのでは堪ったものではないと、こうした政府の対応に、私は憤りすら感じるところです。
 

【電気料金上昇の推移:東電エナジーパートナーの例(jiji.comより引用)】
 
原子力発電所の停止で火力比率が高まるなか、世界規模のエネルギー資源高騰により、調達価格が上昇していることが値上げの主要因ですが、政府が進めた電力自由化の中にあって、何故いまだに旧一電だけが料金規制の対象なのか、またいわゆる新電力の撤退が相次ぐ状況において、逆ざやになりながらも顧客を救ってきたのも、供給力不足による電力需給逼迫のなか、必死で安定供給を守ってきたのも、大規模自然災害にあっても、一刻も早い電力復旧をと、命懸けで作業にあたってきたのも、すべて旧一電の皆さんであり、こうして国民生活や経済活動の生命線でもある電力を懸命に維持してきたことなど無かったかのような「鶴の一声」の真意は一体何なのか。
 
元をただせば、こうした電気料金値上げも、海外のエネルギー資源への依存度を高めざるを得ない状況を作った(原子力なきままの再エネ拡大→代替電源としての火力比率増→燃料調達費増)のは国の政策によるものであるとともに、再エネには約4兆円/年にも及ぶ賦課金が徴収(これも国民負担)されていることを忘れてはなりません。
 
いずれにしても、電力各社とも「乾いた雑巾」をさらに、コストを絞りに絞って申請した規制料金引き上げであることを、このブログをご覧の皆さんにだけはご理解いただきたい。
 
その思いだけお伝えし、本日のブログを閉じます。

欧州の「Heat or Eat」を肝に銘じて

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物価高が叫ばれるなか、総務省が20日発表した2022年12月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.1となり、前年同月比で4.0%上昇となりました。
 
これは、第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年12月(4.0%)以来、41年ぶりの上昇率とあり、この後も企業が製品やサービスの価格にコスト増加分を転嫁する動きが続くと見られています。
 
また、品目別の上昇率では、エネルギー関連が15.2%で全体を押し上げており、都市ガス代は33.3%、電気代は21.3%上がったとあります。
 
奇しくも昨日は東京電力ホールディングスが、来週前半にも家庭向け規制料金の値上げを国に申請する方針で、申請する値上げ幅は3割程度となる見通しとありました。
 
既に、他電力においては料金値上げの審査に入っているところですが、火力発電の燃料価格高騰にギリギリまで耐えつつの対応であることをご理解いただきたく存じます。
 
そうしたなか、昨日は母体の原電総連にて「賀詞セミナー」が開催され、私も出席。
 
セミナーの冒頭、ありがたいことに組織内議員としてご挨拶の機会を頂戴し、敦賀の状況や自身の活動の一端を述べた次第です。
 

【原電総連執行部、各社経営を前にご挨拶】
 
その後は、「電力・エネルギー産業の課題と今後の展望」をテーマに、常葉大学名誉教授で国際環境経済研究所所長の山本隆三氏によるご講演を拝聴しました。
 
上昇するエネルギー価格、欧州エネルギー危機の原因、日本の安全保障、エネルギー危機を乗り越え脱炭素を実現するためには、など国際的な視点からミクロの点まで、データに裏付けされたお話しは大変説得力がありました。
 
とりわけ、太陽光や風力発電の分野では、パネルなど調達資材を中国が席巻していること、原子力の比率で化石燃料比率が決まること、日本と地域が生き残るためにはやはり、付加価値額が高く雇用が多い産業の育成、成長産業を早く見つける(原子力や水素など)こととありました。
 
また、敦賀市も取組みを進める水素製造については、今後成長が見込まれ、約20兆円規模の大きな新市場が作られるともあり、質問でも切り口を伺ったことから、自身の意見提起にも活かしていきたいと考えます。
 
さて、先に東電HDの料金値上げが3割と書きましたが、欧州では何とこれが3倍になっているとのこと。
 
脱石炭が招いた天然ガス依存(言い換えればロシア依存)によるところが非常に大きい訳ですが、この冬言われているのが「Heat or Eat」。
 
つまりは「暖房か食料か」ということで、暖房でエアコンを使えば食料が買えなくなる、逆も然りという状況を指すものですが、偏重したエネルギー政策は、ひとつ間違えればこうなるものと肝に銘じておかねばなりません。
 
最後に、欧州が天然ガス依存(ロシア依存)で抜けていた視点は、「独裁者が出てきたら、エネルギー資源を持っているほうが強い」ということ。
 
ウクライナ侵攻以降のプーチンの存在がまさにそれであり、視点の重要さは火を見るより明らか。
 
こうしたリアルな教訓を日本が生かすか殺すか。
 
まさに、これからの政治に掛かっています。
 

【講演の内容は、山本隆三先生の最新著者にも書かれておりますので、関心ある方はぜひお買い求めいただけば幸いです。】

CO2削減の進捗は遅れたまま

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北陸の冬にあって貴重な晴天の中、昨朝は西浦県道での辻立ちからスタート。
 
西浦県道での辻立ちは、昨日が今年初でしたが、こうして主に敦賀発電所に向かう皆さんへのご挨拶もこれで約4年となります。
 
毎週水曜日と頻度は低いものの、続けることによって元気を送ったり、いただいたりの関係が自然と生まれていることをありがたく思うところ。
 
また、いつも支えてくれる原電労組の仲間にも感謝です。
 


【今年初の辻立ち。朝の冷え込みと凛とした雰囲気に気持ちも引き締まりました。】
 
なお、敦賀2号の審査が進み、安全性向上対策工事などが始まれば、この道路はもとより、敦賀がより活気付くことから、一日も早く再稼働に向けた機運が高まることを期待する次第です。
 
さて、少し前になりますが、昨年12月27日に日本エネルギー経済研究所が、2023年度のエネルギー展望を発表しました。
 
それによると、一次エネルギー国内供給は、2022年度に対前年度比0.7%の微減となるものの、人の移動の増加に伴う輸送量回復に加え、鉄鋼や自動車の増産により2023年度には同0.9%増と、2年ぶりに増加に転じる見通しであること。
 
また、エネルギー起源CO2排出量は、2022年度に9.75億トンと、2年ぶりに減少。
 
2023年度には原子力の増加などにより、9.62億トンと、さらに減少するものの、2013年度比22.1%減で、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減」(2021年4月に菅首相が表明)の目標には程遠く、「削減の進捗は遅れたまま」と懸念している。
 
GX実行会議で示した「日本のエネルギーの安定供給の再構築」の中で、今夏以降、7基の新たな再稼働を目指す方針を打ち出していることにも触れ、「個々のプラントに応じた適切な審査を通じた再稼働の円滑化がわが国の3E(安定供給、環境への適合、経済効率性)に資する」と述べています。
 
原子力の稼働率上昇に伴いCO2排出量が明らかに減少していることから分かる通り、2050年カーボンニュートラルを真剣に目指すに鍵を握る電源についても答えは明らか。
 
政府が自ら掲げた目標を達成するためにも、「『依存度を可能な限り低減する』とする現行エネルギー基本計画の範囲内における『原子力を最大限活用』」という、極めて分かりにくい考えを見直すべきと、改めて認識するところであります。
 
電気料金高騰や需給ひっ迫が、国民生活や経済活動を直撃することを肌身で感じる昨今、我が国の選択肢は「S(安全)+3E」の実現しかないことを、私自身、微力ながらあらゆる場で発信を続ける所存です。
 
ブログをご覧いただいている皆様におかれましてもぜひ、ご理解賜りますよう宜しくお願いいたします。

東京には屋根がある

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0〜18歳への子育て世帯に対する5000円給付といい、目玉政策(実効性は別として)を打ち出す小池都知事ですが、昨年12月には、新築戸建て住宅などへの太陽光パネル設置を義務付ける環境確保条例の改正案を可決したことは記憶に新しいところ。
 
審議の中では、太陽光パネルの大半が中国製であることによる人権問題(ジェノサイド)との関係、廃棄コストや災害時の危険という視点も挙げらたうえでの可決であったと認識するところですが、これに関し、エネルギー環境政策の第一人者である山本隆三氏(国際環境経済研究所所長)はFacebookで以下のようにコメントしています。
 
(以下、引用)
『先日の毎日新聞「理念先行?太陽光パネル」の記事の中で「パネルのリサイクルが簡単ではない」という私のコメントが引用されています。小池知事のインタビューも載っていますが、エネルギー不足に対処するためにも太陽光パネルを導入するそうです。今の電力不足は、降雪時など太陽光パネルが発電しない時に起きるので、パネルを新たに設置する意味はありません。都庁にエネルギーのことが分かる人がいないのか、知事が全く意見を聞かないのかわかりませんが、どっちにしても呆れます。』
 
なお、記事には「東京には屋根がある」との知事発言も記載されていましたが、これは、かの小泉進次郎氏も過去に同じことを言っていたような…。
 
いずれにしても、山本隆三氏の辛辣な指摘を私は仰る通りと受け止めたところです。
 
さて、これまでも述べてきているよう、私は「原子力か再エネか」の不毛な二項対立議論から一日も早く脱却すべきとのスタンスでありますが、ひとつ頭に置いておくべき新たな知識として、こちらもその道の第一人者、キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹のレポート「【研究ノート】メガソーラーの所要面積試算」(令和5年1月5日)がありました。
 
これは、100万キロワットの原子力発電所をメガソーラーで代替する場合のメガソーラーの所要面積を概算したもので、結果、日照が無い時間に電力供給するために電気を(4週間分)貯めておくバッテリーの面積も概算した結果、合計ではおおむね、山手線の内側の面積の約2倍が必要になるとありました。
 
→杉山氏のレポート「【研究ノート】メガソーラーの所用面積試算」はこちらから
 
これまでも太陽光発電で原子力と同等の発電量を得るには、広大な面積が必要で、原子力発電所(100万kW級)1基分を代替するには、約58平方キロメートル(山手線の内側面積とほぼ同じ)の面積が必要となると例えられてきましたが、これは瞬時の発電量(MW)の話。
 

【第1回低炭素電力供給システム研究会資料(2008年7月8日)、日本のエネルギー2010(資源エネルギー庁)より作成(九州電力HPより)】
 
瞬時の電力量が等しいというだけでは、電力の安定供給は出来ませんので、本当に原子力発電所を代替するというのであれば、電気をバッテリーに貯めておいて、夜間や曇天・雨天時にはそれで電力を供給(=発電電力量(MWh))しなければならないことから、これに必要な面積を計算したものですが、今後は、現実的な代替として捉える場合「山手線内側の面積の約2倍」と説明することにしたいと思います。
 
上表を見れば、原子力発電所の設備利用率が70〜85%であるのに対し、太陽光は12%、しかもこれら再エネのさらなる導入拡大のため、国民から徴収する「再エネ賦課金」は年間4兆円にも上っています。
 
それでも再エネの「主力電源化」を目指すとする国の基本政策にはやはり、首が肩につくほど傾げるばかりですが、こうした知見も頭に置きながら、引き続き客観的データを基に公平な視点で情報発信に努める所存です。

「電力スピリット」のもと停電復旧にあたる皆さんに心よりエールを送る

エネルギー ブログ 防犯/防災

寒波による大雪の話題が続きますが、各地で発生したのは交通機関等の混乱だけではなく、暴風雪の影響による電柱折損、倒木による断線、鉄塔倒壊などによる停電。
 
昨日お昼前に流れたニュースでは、厳冬の北海道で発生した停電のため、クリスマスを避難所で過ごすご家族へのインタビューシーンがあり、いま一番欲しいものは?との問いに「電気!」と答えるお子さんの姿がありました。
 
とりわけ大きな被害が発生した北海道、東北、北陸、四国の各電力管内においては、折れた電柱の建て替えや切れた電線の張り替え、倒木によるかかり木除去作業、当該送電線の健全性を確認するための巡視など、懸命な作業が続けられました。
 
各地の対応状況に関し、まず北海道電力管内では、送電線(66kV紋別線)の補修作業など、道路から現場までの積雪量が多く、資機材運搬に時間を要しながらも天候の状況を確認しながら慎重に作業が進められ、12月23日(金)19時00分現在で約25,733戸あった停電は12月25日(日)23時40分に解消。
 
北海道電力ネットワーク(株)からは、Twitterなどで「長時間にわたる停電により多くのお客さまにご不便、ご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。」とのコメントが発出されています。
 

【深い積雪と厳しい寒さのなか、送電線の復旧にあたる現場の皆さん(北海道電力Twitterより引用)】
 
次に東北電力管内では、12月20日15時現在であった青森県602戸、岩手県680戸、秋田県4,975戸、宮城県2,750戸、山形県17,531戸、福島県7,070戸の停電が復旧。
 
新潟県59,222戸に対しては、佐渡市へ青森、岩手、秋田、宮城、福島支社より、村上市へは岩手、宮城支社より応援隊が入り、現在も復旧に向け作業が進められています。
 
北陸電力管内では、19日より能登地域で発生していた停電が22日に概ね解消。
 
四国電力管内では、愛媛県4,800戸、高知県5,800戸について、一部復旧がされたものの、12月25日(日)21時00分現在で、あと1日程度を要する見込みとしています。
 
冒頭、欲しいものは「電気!」と答えたお子さんのことを書きましたが、楽しみにしていたご家族とのクリスマスを返上し、こうして厳しい環境のなか、1秒でも早く電気を届けるため、現場で奮闘されている皆さんの姿を誇りに思う次第ですが、残る復旧作業に対しては何をおいても安全第一で進められ、無事にご家族のもとに帰られることを願うばかりです。
 
電力の安定供給のみならず、こうした自然災害に対しても「ライフラインを守る」との高い使命感のもと献身的に対応するのが「電力スピリット」。
 
設備を持たずに電気だけを売買し、調達価格が上がれば顧客を切り離すような、いわゆる新電力と違うのは「プライド」であり、今なお「早期復旧」の思い一途に各地で対応にあたる仲間の皆さんに、心よりエールを送る次第です。

GX実行会議の「基本方針」は真の「政策転換」と言えるのか

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上皇さまは本日、89歳の誕生日を迎えられました。
 
今年7月には「右心不全」と診断され心配したものの、その後は治療にて改善傾向にあるとのことで安堵。
 
譲位から3年以上が経過をしましたが、これからも上皇后さまとともに穏やかに過ごされることを願う次第です。
 
さて、昨日「転換なるか」と注目したのは、政府のGX実行会議。
 
このGX実行会議ですが、改めて内閣官房のホームページを見ると「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX(グリーントランスフォーメーション)を実行するべく、GX実行会議を開催します。」と書かれており、改めて歴史的な意味合いを持つものであることを再認識したところ。
 
午後開かれた会議では、GX実現に向けた今後10年間のロードマップ(工程表)を含む基本方針が取りまとめられ、原子力発電所の60年を超えた運転を認めるルールの新設や建て替えなど、足元のエネルギー安定供給に向けた対策と、企業の二酸化炭素の排出に負担を求める「カーボンプライシング(CP)」の導入が2本柱で、日本の産業・エネルギー政策の大転換を目指すとされました。
 
なお、基本方針については、国民から意見募集をした上で閣議決定し、原子炉等規制法など関係法令の改正案を来年の通常国会に提出するとのこと。
 
とりわけ、8月末に岸田総理から検討指示のあった原子力発電に関しては、工程表において、安定供給と脱炭素化の両立に向け「重要な役割を担う」と明記したうえで、既存の原子力発電所を最大限活用するため原則40年、最長60年という運転期間のルールは、東京電力福島第1原子力発電所事故後の審査対応などで停止した期間を除外し、60年を超える運転延長を可能にすること。
 
また、持続的な原子力の活用のため、原子力発電所の建て替えにも踏み込み、廃止が決まった発電所を対象に次世代型原子力発電所に建て替える方針も示しました。
 
私が特に注目していた、この「建て替え」に関し、実際会議に提出された、西村経産大臣からの「GX 実現に向けた基本方針(案) 〜今後10年を見据えたロードマップ〜」には、次のように記載されています。
 
「将来にわたって持続的に原子力を活用するため、安全性の確保を大前提に、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。地域の理解確保を大前提に、まずは廃止決定した炉の次世代革新炉への建て替えを対象として、六ヶ所再処理工場の竣工等のバックエンド問題の進展も踏まえつつ具体化を進めていく。その他の開発・建設は、各地域における再稼働状況や理解確保等の進展等、今後の状況を踏まえて検討していく。」
 
さらには、同じく経産大臣からの「GX実現に向けた基本方針(案)参考資料」で示された、各産業・分野ごとの「今後の道行き」では、以下のスライドが示されています。
 

【第5回GX実行会議(令和4年12月22日)資料より抜粋】
 
このスライドで分かる通り、時間軸を考えるにおいては「技術熟度に合わせた開発の加速」とし、事業者等からの個別のヒアリングを踏まえて、「研究開発を進めていく上での目標時期」として策定したもの(実際に建設を行う場合の運転開始時期等は、立地地域の理解確保を前提に、事業者の策定する計画に基づいて決定されることとなる。)と定義づけられています。
 
あくまでも開発目標であり、商業用としての設置時期は事業者に委ねられているところが味噌と受け止めたところですが、そもそも「革新軽水炉」とはどの炉型を指すのかは明記されていないため、これを受けて審査基準を整備する原子力規制委員会としても動きようのないところ。
 
なお、敦賀にとって関心の高い日本原電敦賀3、4号機に関しては、これら条件に勝手に当てはめると、
・新規制基準に適合させる改良型加圧水型炉(APWR+)は、新たな安全メカニズムを組み込んだものであること
・過去経過を辿れば、敦賀発電所1号機の廃止決定との関係を踏まえ、増設計画を進めたものであり、いわば「建て替え」といえる
・現在、敦賀2号の審査を優先するため、後回しとしているものの、敦賀3、4号は既に申請済みプラントであること
・従前に地域の理解が得られていること
となり、GX実行会議に示す「建て替え」の対象になるものと考えます。
 
あくまでも自論ということですが、ひとつの考えとしてご理解いただければ幸いです。
 
最後に、原子力発電のことが取り立たされているGX実行会議「基本方針」ですが、中身は、原子力の活用の前に「徹底した省エネルギーの推進」、次に「再生可能エネルギーの主力電源化」について書かれています。
 
蓄電池開発などを含め、再エネを活用していくことに異論はないものの、欧州の事例や我が国の国情を考えれば、「主力電源化」することには反対するものであるとともに、「原子力依存度を可能な限り低減」とする現行「エネルギー基本計画」との齟齬を現実論で見直すまでは、真の「政策転換」とまでは言えないものと肝に銘ずる次第です。

敦賀市にて「原子力由来水素」の実証開始

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ここ数日は寒波による冷え込みが続いていますが、同じく厳しいのは今冬の電力需給。
 
そうした中、関西電力大飯発電所3号機(PWR、定格電気出力118万kw)が定期検査を終え、12月16日に原子炉を起動。
 
諸試験を行った後、本日18日よりに調整運転に入る予定となっており、逼迫する電力需給を救うべく戦線復帰する原子力発電所の存在を心強く思うと同時に、我が敦賀2号も早く社会に貢献せねばとの思いを強くするところです。
 
さて、電力需給の点にも通ずることかと思いますが、昨日の福井新聞に、「国内初」となる原子力発電の電気を活用したCO2フリー水素製造の実証が開始された旨の記事が掲載されていました。
 
これまで敦賀市では、水素サプライチェーンの構築を目指す「敦賀市調和型水素社会形成計画(ハーモニアスポリス構想)」を策定し、水素エネルギーの活用に向けた取組みを進めており、既に市公設地方卸売市場(以下、卸売市場)などに設置した水素ステーションでは「再エネ由来」(太陽光)による水素製造を行ってきていたところ。
 
一方、関西電力では、ゼロカーボンロードマップにおいて、「原子力エネルギーを、将来的には、その電気や高温熱を使った水素製造にも活用し、原子力のさらなる可能性の拡大を図る」ことを掲げており、原子力発電所で発電した電気を活用した水素製造の検討を進めてきており、福井県の嶺南Eコースト計画とも連動する中で、今回の実証実験に至ったとの流れとなります。
 
本実証では、水素製造装置が設置されている卸売市場に関西電力の原子力発電所で発電した電気を供給し、水素製造から利用に至るまでの一連の流れを追跡(トラッキング)することにより、水素が原子力発電の電気によって製造されたことを特定するもの。
 

【実証の概要(関西電力ホームページより引用)】
 
実はこの「原子力由来水素」に関しては、令和3年第2回(6月)定例会の中で、「調和型水素社会とスマートエリア形成」と題した一般質問にて、私の方から以下意見しています。
※議事録から抜粋しているため口語調となっています。
 
「何由来の電源かというのを、その種別とか産地を追跡するシステムがございまして、これがRE100というトラッキングシステムということで、これによってさっき言いました、どの電源なのか、どこから来た電気なのか。非化石電源であればそれを証明するということで、そういうトラッキングシステムのほうは関電のほうでも実証していると思いますけれども。こうなると、先ほどの再エネ由来、メガソーラー由来というところに加えまして、嶺南地域においては原子力発電由来というものも選択肢の一つということになってくるわけですけれども、こちらについては、この先、原子力発電由来の電源も活用していくというお考えでよろしいでしょうか。
 
これに対し、当時の企画政策部長からは「現段階では、そこまでの計画というか調査まで達していないのが現状でございます。」との考えがありました。
 
おそらく、公式見解としては言えないだけで、水面下では視野に入れていたことかとは思いますが、結果してこの後、関西電力との調整が進み、こうして「国内初」の取組みにつながったことを嬉しく思う次第です。
 
一度発電した電気で水素を製造するのは非効率だとの指摘があるのは十分承知ですが、水素の特徴は「貯めておける」こと。
 
これと同じ発想は、夜間の原子力余剰電力でダムに揚水し、必要な時に使う(発電する)揚水発電かと思いますが、気まぐれな「再エネ由来」ではなく、安定した「原子力由来」で将来的に水素製造容量を増やすことが、実用的な脱炭素電源比率の拡大につながること、CO2フリー電源供給地として敦賀市の市場価値が高まること、さらには敦賀市が目指す「真の」ゼロカーボンシティにつながることを期待する次第です。

節電要請の冬をいつまで続けるのか

エネルギー ブログ

11月とは思えない温かい日が続いていただけに、冷たい北風が妙に寒く感じられた昨日。
 
天気予報では、11月30日(水)から12月2日(金)に掛けて、北日本の上空に真冬並みの強い寒気が流れ込む予想となっており、30日以降は北海道で雪雲が発達しやすくなる影響から、東北や北陸、中国地方などでも、山沿いを中心に雪となる恐れがあるとのこと。
 
師走入りを合図に、いよいよ冬本番といったところですが、防寒着の着用に加え、スタッドレスタイヤへの履き替えなど、早目の準備で体調や安全に留意したいと思います。
 

【強い寒気が流れ込む予想の日本列島(ウェザーニュースより)】
 
さて、天候と同じく、厳しい冬を迎えるのは電力需給。
 
電力供給の余力を示す供給予備率は、最低でも3%は必要ですが、今冬が厳しい寒さとなった場合、東京電力ホールディングスと東北電力管内の来年1月の予備率は4.1%とギリギリの水準となることが予想されています。
 
このように、今夏に続いて電力需給が逼迫する恐れがあることから、12月1日から来年3月31日までの期間、政府は全国の家庭や企業を対象に、全国で数値目標を定めない節電を求めることとしています。
 
慢性的な電力需給逼迫の主要因は、厳しい暑さ寒さや、特に冬場は悪天候で太陽光発電が機能しないことではなく、ベースロード電源である原子力発電所の長期停止に加え、電力自由化や脱炭素の進展で、各発電事業者の経営判断により火力発電所の休廃止が相次いでいることなど、構造的な「供給力不足」が根幹にあることを忘れてはなりません。
 
つまりは、気候の問題ではなく、これまで採ってきた国の政策によって生じている状況であると認識する次第です。
 
今冬を迎えるにあたり、政府は節電要請だけではなく、休止中の運転期間の長い火力発電所を再稼働させて電力供給を増やす計画ですが、想定外の故障リスクに加え、ロシアによるウクライナ侵略に伴い、ロシア産の液化天然ガス(LNG)の対日供給が滞る恐れがあるとの報道もあり、さらに予断を許さない状況にあります。
 
こうした緊張感の中、安定供給に全力を尽くす電力関連産業の職場の皆さんには敬意と感謝を表する次第ですが、「電力の安定供給」は国民生活と経済を支える「国家の血液」であります。
 
政府におかれては、こうした事態を一刻も早く打開すべく、今週にも経産大臣から提示されるとある、GX実行会議での検討指示に対する原子力発電の今後の取扱いを含め、「真に現実的なエネルギー政策」となるよう、使命感をもって対応いただくことを、冬将軍の到来を前に改めて切に求める次第です。

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