葛西氏が「国家観」をもって貫いた「エネルギー安全保障」

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旧国鉄の分割民営化で中心的役割を果たし「改革3人組」の一人と呼ばれたJR東海名誉会長の葛西敬之氏がお亡くなりになったことが大きく報じられた昨日。
 
「卓越した国家観を持った経営者」、「稀有な憂国の経営者」とも呼ばれた葛西氏は、国鉄の民営化では日本の鉄道の将来を憂い、民営化の実現に奔走。
 
その後、自らリニア中央新幹線計画を主導したのも、大地震で東海道新幹線が被災した際の影響を憂慮したことや、新幹線の技術を海外に売り込む際、当時の財界内で要望が強かった中国への技術移転に強く反対したのも、中国への技術流出を懸念したからであり、ビジネスの前に国の安全保障の姿をいつも考えていた人だったとも。
 
また、鉄道事業だけではなく、東京電力福島第1原子力発電所の事故後、多くの財界人が世論の反発を恐れ、原子力の話題に触れるのを避ける傾向が強い中にあっても、葛西氏は正面から、資源小国の日本における原子力発電の必要性を説き、議論から逃げなかったことはやはり、我が国のエネルギー安全保障のあり方を、信念をもって貫いた態度であったと深く感銘するところです。
 
偉大なる葛西氏のこれまでの国家への多大なる貢献に敬意を表するとともに、ここに心よりご冥福をお祈りいたします。
 
さて、そのような日に開催された「第50回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会」ですが、経済産業省資源エネルギー庁はこの中で「2022年度の電力需給見通しと対策について」との資料を提示し、各エリアで予備率3%を切る今夏、さらには東京管内などではマイナスとなる今冬の深刻な電力需給逼迫が見込まれる状況に対し、大規模停電の恐れが高まった場合、大企業などを対象に「電力使用制限」の発令を検討すると明らかにしました。
 
違反すれば罰金が科される強制的な措置で、実際に発令されれば東日本大震災の影響で計画停電に続き実施した平成23年7~9月以来となり、幅広い経済活動に影響が及ぶ可能性が生じることとなります。
 
同じく、需給ひっ迫警報等の国からの「節電要請」の手法の高度化やセーフティネットとしての「計画停電」の準備状況の確認なども記載されたことは、供給力を増すための手立てを講じることに限界が来ている状況を露呈するものであり、「深刻」を通り越し、「危機的」状況にあると同時に、このような言葉が並ぶこと自体、もはや先進国と言えないのではないかと自虐的な念さえ覚える次第です。
 

【「原則実施しない」と整理される「計画停電」にまで踏み込んだ記載(同会議における資源エネルギー庁提出資料「2022年度の電力需給見通しと対策について」より:2022年5月27日)】
 
なお、本年4月8日の岸田総理会見でありました「夏冬の電力需給逼迫を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安保及び脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用を図ってまいります」との発言を受けては、申し訳なさげに以下のスライドのように記載されていて、特に原子力に関しては、何をもって「最大限」とするのか、具体的なことは一切書かれていないという状況となっています。
 

【同じく、資源エネルギー庁提出資料「2022年度の電力需給見通しと対策について」より】
 
※詳しくお知りになりたい方は、以下のリンクより資料お読み取りください。
 →→→「第50回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会」資料はこちら
 
なお、この日開催された衆議院予算委員会では、国民民主党の玉木代表が質問に立ち、古くなった原子力発電所を小型モジュール炉(SMR)や高速炉等へリプレース(建て替え)することを提案しましたが、岸田総理は「しない」と明言。
 
昨日、このブログでお伝えした通り、国民民主党は、電力の安定供給とともに技術や人材の確保のためにも、安全性の高い新型炉等へのリプレースは必要との方針を掲げていますが、短期的に見ても、中長期的に見ても、政府が原子力発電を「最大限」活用するとの具体的な意図が見えてこないのは、残念の極みとしか言いようがありません。
 
迫る電力需給逼迫の危機に加え、ロシアの関係も踏まえた資源価格、電気料金高騰はダブルパンチで国民生活や企業活動に大きな影響を与え続けています。
 
エネルギー安全保障の重要性を究極なまでに拘り続けた葛西氏であれば、この国難をどう乗り越えたであろう。
 
そんなことを思いながら、葛西氏が人生を通して貫いた、国家観をもって世論の反発を恐れず、議論から逃げない姿勢こそが「政治の役割」だと、肝に銘じる次第です。