これでもまだドイツを「見習う」のか

エネルギー ブログ

物価高騰などを踏まえた政府の総合経済対策において、目玉となっているのが電気やガス料金の負担軽減。
 
既に値上がりしているこれら料金ですが、一般家庭の電気料金は、2023年春に「2000円から3000円くらいの上昇が想定される」とされており、政府としては年明けからの値下げ制度実施に向け、検討を進めるとのこと。
 
これに関しては、国民民主党が電気料金に上乗せして徴収している「再エネ賦課金」の徴収一時停止による方法を提案しているのに対し、所管する西村経産相は「燃料費調整額」での値下げを含め調整していると明らかにしていますが、ポイントは、国民が実感できるような形、すなわち電気料金明細表で見える形で行うとしていることであり、今後具体的にどのような仕組みでされるのか注視するところです。
 
こうしてエネルギー資源価格が高騰している要因は、ロシアによるウクライナ侵攻によって一変した国際環境にほかなりませんが、日本以上に顕著な影響を受けているのが欧州。
 
日本の比ではない電気料金になっていることは、以前にこのブログでもご紹介したところでありますが、同時に欧州各国が採っているのはエネルギー自給率を高めること。
 
ロシアからのガス供給依存が高い国はなおのことですが、地政学的な視点を含め、元々原子力大国のフランスはもとより、イギリス、フィンランド、スウェーデンなどでも相次いで原子力発電所の新設を「政権」として明示しているところです。
 

【フィンランドの国有企業フォータム社が有するロビーサ原子力発電所】
 
一方、ロシアからのガス依存度が最も高いドイツ。
 
2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、ドイツでは「今年末までにすべての原子力発電所を閉鎖し、脱原子力を達成する」ことになっていましたが、ドイツ連邦政府の環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省(BMUV)は10月19日、国内に残存する商業用の原子炉3基を最長で2023年4月15日まで運転可能な状態を維持するため、内閣が原子力法の修正案を承認したと発表しました。
 
内閣決定により、南部のイザール原子力発電所2号機(PWR、148.5万kW)とネッカー原子力発電所2号機(PWR、140万kW)、および北部に立地するエムスラント原子力発電所(PWR、140.6万kW)は、現在装荷されている燃料を使って3ヶ月半に限り運転期間を延長。
 
新たな燃料の装荷を許可しない一方、この期間に現行のモニタリングに追加して定期安全審査が行われることはないとしており、現に連邦政府の経済・気候保護省(BMWK)のR.ハーベック大臣は今回の記者会見で、「来年の4月15日以降、これら3基に新たな燃料が装荷されることはないし、運転もそこで終了する」と表明しています。
 
3ヶ月半だけの時限的措置とする理由としては、「その次の冬季には、ガスの輸入量を大幅に増加できると考えており、エネルギーの供給状況は今期より良くなるはずだ」と述べており、再生可能エネルギーを中心に国内発電設備を増強する考えも明らかにしています。
 
計画通り「脱原子力」達成か延期かで揺れていたショルツ政権の採ったこの選択を、私は「その場しのぎ」の案ではないと受け止めた次第。
 
つまり、ハーベック大臣の考えを踏まえれば、「エネルギーの供給を他国に委ねている」状況に変わりなく、他の欧州諸国が採る「自給率を高める」政策と相反するものと言えるからであります。
 
「この冬を凌げば何とかなる」との見方はつまり、今後のウクライナ情勢を予見してのことか、あるいはノルドストリーム(ガス供給パイプライン)でつながるドイツとロシアの関係を言うのか、欧州の地政学は複雑なだけに軽々に物は言えませんが、この環境下においても「脱原子力」に進むドイツを欧州各国はどう見ているのか。
 
こうした状況を見て、考えるはわが日本。
 
東日本大震災以降、日本においては「ドイツを見習え」との声がありましたが、ベースロード電源である原子力発電の長期停止が続き、補完的役割の火力発電所が主力を賄い、さらにバックアップ電源無くして成り立たない太陽光など再エネ比率を高めてきた結果が今の状況であります。
 
エネルギー自給率を高めることは、エネルギー安全保障のみならず、経済や国民生活のためにも必要不可欠であることは最早言うまでもありませんので、冒頭の電気・ガス料金値上がりの根本にある要因の解消、すなわち原子力発電の最大限活用と将来に向けた明確な政策明示をしていただけるよう、政府には切に期待する次第であります。