「革新的」の前に「既存原子力」のフル活用を

ブログ 原子力

17日に行われた岸田首相の施政方針演説では、気候変動問題を「克服すべき最大の課題」として、その対応を前面に掲げられました。
 
課題解決に向けた取り組みとしては、2050カーボンニュートラルも視野に革新原子力や核融合などの非炭素電源に触れ「方向性を見いだしていく」と述べたこと、エネルギー供給構造の変革だけでなく「産業構造、国民の暮らし、地域の在り方全般にわたる経済社会全体の大変革に取り組む」と強調したこと、水素・アンモニアの海外展開にも言及し、技術標準や国際インフラ整備をアジア各国と進める「アジア・ゼロエミッション共同体」を構築すると表明しています。
 
「将来」に向けた選択肢を総花的に挙げられたとの印象は拭えない訳ですが、「最大の課題」は足下の電力需給ひっ迫にあると考える私としては、これを回避するための現実的で具体的な取組みが述べらなかったことは、どこか問題のすり替えがされているようにも受け止めた次第です。
 
結論から申し上げれば、「革新原子力」や「核融合」を挙げたとて実用までの道のりの長さを考えれば、「既設原子力発電」をフル活用するほか、今ある「軽水炉」の技術を生かして新増設を進めなければ、経済成長を後押しする「エネルギー源」は生まれないと考えるものです。
 
施政方針演説のこの部分に対しては、私がウォッチしている範囲だけでも、複数の有識者が私と同様の考えを示している訳ですが、絵空事を言っていては世界から取り残されるということだけは申し上げておきたいと思います。
 
そのことを裏付けるよう世界の動きを見てみますと(原子力産業新聞記事を基に)、まず先進的な側面としては、今年に入ってからだけでも、カナダではダーリントン発電所内で建設するSMR(小型モジュール炉)としてGE日立社の「BWRXー300」を選定したほか、英国では政府が2030年代初頭の実証に向けた先進的原子炉プログラムにHTGR(高温ガス炉)を選択するなど、既に明確な方向として進んでいます。
 
また、既存の軽水炉に関しては、1月1日に中国福建省で建設していた福清原子力発電所6号機(PWR、115万kW)が初併入。
 
同炉は中国が知的財産権を保有する第3世代の100万kW級PWR設計「華龍一号」を採用しており、「華龍一号」の完成は福清5号機に次いで中国国内2基目、世界全体ではパキスタンのカラチ原子力発電所2号機(110万kW)を含めて3基目となるとのこと。
 

【運転を開始した福清原子力発電所6号機(原子力産業新聞より)】
 
また、エジプト初の原子力発電設備となるエルダバ発電所の建設工事を請け負ったロシアのロスアトム社は1月12日、同発電所3、4号機(各120万kWのロシア型PWR:VVER)の建設許可を、エジプト原子力発電庁が昨年12月30日付で同国の原子力規制・放射線当局に申請したことを明らかにしました。
 
エジプトでは急速な人口の増加と産業活動の活発化により、電力需要が急増しており、停電のリスクを避けつつ需要の増加に対応するため、エジプト政府は発電設備の多様化を含めた意欲的なエネルギー計画を策定。
 
CO2を排出せずに低価格な電力を供給可能なエルダバ原子力発電所は、同国のエネルギー計画の要になると見られているとのこと。
 
ここで紹介したことは、世界で起きているほんの一端に過ぎない訳ですが、国家の至上命題である、「いま」そして「将来」に亘り自国のエネルギーを低廉且つ安定的に確保していくことに必死であることがお分かりいただけるものと思います。
 
これに照らして、我が日本はどうか。
 
政治の場で発せられる言葉は「革新的」ばかりで、今ある軽水炉の技術を用いた新増設・リプレースは、あたかも「禁句」にしているかのようです。
 
これまでも自身の考えとして述べてきているよう、先の大戦に至る過程で日本が思い知ったことは今も変わっていません。
 
つまり、世界は熾烈な「エネルギー資源獲得競争」環境にあり続けるということであり、「脱炭素化」により一層激化していると認識せねばなりません。
 
こうして世界で激化する環境の中で、まずは「今ある資源(人的技術を含む)」である軽水炉を最大限活用していくと考えることを「禁句」にしていてはいけないと強く思う次第です。
 
今日から国会は施政方針演説に対する代表質問が始まります。
 
岸田首相の考える「気候変動対策」や「エネルギー政策」に対して、「現実路線」で考えを述べる政党があるのか否か。
 
「絵空事ばかりでは日本は沈む」との認識をもって、この岐路に立つ国会を注視する所存です。