気候変動対策のアンサング・ヒーロー(影のヒーロー)は長期運転だ  

ブログ 原子力

ここ数日は敦賀市議会の活動報告が続きましたが、本日は、同時並行的に情報収集している原子力の話題。
 
これまで何度も触れてきている通り、8月の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」での岸田首相の検討指示を受け、国の様々な検討体では、それぞれの課題に対する議論が進められてきているところ。
 
このうち、14日に開催された「産業構造審議会 産業技術環境分科会 グリーントランスフォーメーション推進小委員会/総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 2050年カーボンニュートラルを見据えた次世代エネルギー需給構造検討小委員会 合同会合」と、とてつもなく長い名称の会合では、白石座長(熊本県立大学 理事長)より、「エネルギー政策というのは、S+3Eという4つの柱からなっている訳だが、この4つの柱の各々の中にはプライオリティ(優先順位)がある。CO2の削減それからカーボンニュートラルの実現ということと、安全・安心を重視して、原子力発電所については、その使用を少しずつ減らしていくという菅(すが)政権以来の政策、この両立が歴然と不可能になっている。そういう中で、岸田政権の下、私としてはあるべき政策がやっと採用されたということは、非常に喜ばしいと考えている。」との発言があったところ。
 
また、9月にエネルギー供給体制の見直しに向け検討を開始した、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」では、15日の会合で原子力政策について議論。
 
会議では、資源エネルギー庁が同調査会下の原子力小委員会における検討状況を、
・再稼働への関係者の総力結集
・運転期間延長など、既設原子力発電所の最大限活用
・次世代革新炉の開発・建設
・再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化
・国際連携の推進
の論点ごとに整理し説明した後、各委員より意見が述べられましたが、委員の杉本達治氏(福井県知事)は、運転期間延長に対し、「立地地域としては安全が最優先」、「事業者が安全対策に十分な投資を図れる制度設計を合わせて検討していくべき」と要望があったほか、原子力小委員会の委員長を務める山口彰氏(原子力安全研究協会理事)からは、今後の議論に向け、「様々な問題が絡み合った連立方程式を解くようなもの。原子力ワンイシューの中で二者択一的に対立するのではなく、様々な論点を合わせて解を求めていくべき」との意見がありました。
 
岸田首相が指示した検討期間は「年内」としているため、今後、各検討体においては取りまとめに入っていくのかと思いますが、敦賀市議会始め、嶺南の原子力立地自治体議会が提出した意見書にもある通り、「新増設等を含めた、原子力政策の明確化」を示していただきたいと強く望む次第です。
 
さて、これら論点のひとつである「運転期間延長」に着目しますと、米国のコンステレーション・エナジー社では、イリノイ州内で保有するクリントン原子力発電所(BWR、109.8万kW)とドレスデン原子力発電所(2、3号機、各BWR、91.2万kW)の運転期間を、それぞれ20年延長する方針を表明したとの報道がありました。
 
過去10年間の平均稼働率は93%~95%をマークしており、最も信頼性の高い電源である点を強調したうえでの判断とのことですが、米原子力規制委員会(NRC)への申請は、ともに2024年を予定しているとのこと。
 

【何とも美しきクリントン原子力発電所(原子力産業新聞より引用)】
 
ちなみに、米国の運転期間延長に対する規制は、
・運転期間は40年。
・規制当局の安全審査をクリアすれば、20年の延長が可能。
・回数制限無し。

となっており、現在運転中92基のうち、50基が40年超運転、これまでにNRCによる60年延長認可を取得した原子炉は94基で、うち80年延長認可を取得したものは6基の実績となっています。
 
クリントン発電所は2027年4月に40年目を迎えるため、初回となる今回の運転期間延長申請がNRCに認められれば2047年まで運転継続が可能。
 
一方のドレスデン2、3号機では既に初回の延長が認められており、現在の運転認可は2029年と2031年まで有効としたうえで。2回目の運転期間延長により、両プラントは2049年と2051年までそれぞれ80年間運転を継続できることになります。
 
また、先の基本政策分科会での杉本委員発言と通ずる「制度設計」に関しては、同州では、2021年9月にエネルギー部門と輸送部門の段階的な脱炭素化を目指し、クリーンエネルギー関係産業における雇用の創出促進を定めた「気候変動・雇用機会均等法」を成立させたほか、連邦政府レベルでは今年8月、原子力発電所に対する税制優遇措置を盛り込んだ「インフレ抑制法(IRA)」が成立し、現にコンステレーション社は、運転延長を決めた理由について、「環境影響面と経済面における原子力の価値を認める法律が州政府と連邦政府の両方で成立したため」と説明しています。
 
世界に目を向けると、いわゆる脱炭素に向けた実効的な取り組みとしての原子力発電所の長期運転、さらにはこうした支援措置により、州(あるいは国)の姿勢が明確にされていることを、我が国でも強く認識しておく必要があるのだと思います。
 
結びに、現在エジプトで開催されている国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)で行われた国際原子力機関(IAEA)のグロッシー事務局長とブルームバーグのエネルギー担当編集主幹ウィリアム・ケネディ氏との対話セッションにおいて、1970年代に運転を開始したプラントが50年を迎えつつあることから、その高経年化について問われたグロッシー事務局長はこのように断言しています。
 
「気候変動対策のアンサング・ヒーロー(影のヒーロー)は長期運転だ」
 
また、長期運転にかかるバックフィット等のコストは初期コストの半分以下であり、50年どころか80年近く経過しながらも安全なプラントもあることに言及し、「私は100年の運転も可能と考えている」と強調したとあります。
 
この発言が新聞やテレビで報じられることは、まず無いかと思いますが、国際的な視点や感覚を正しく伝えることも私の役割と思い紹介いたしました。
 
電力需給逼迫に電気料金高騰など、エネルギー危機に直面する我が国において、原子力政策で政治の駆け引きをしている場合ではありません。
 
野球で言えば、3ボール2ストライク。
 
見せ球を投げている場合ではないいま、真に現実的な政策を、まっすぐストレート勝負で国民に示すべきと考えるのは私だけでしょうか。