東海第二発電所の運転差止仮処分申立てを却下

ブログ 原子力

さだまさしさんが唄う伸びやかな「アーアーーアアアアアーア♬」の声に併せて浮かぶ壮大な富良野の景色。
 
こう言えば誰しもピンと来るのは、フジテレビ系の国民的ドラマ「北の国から」シリーズ。
 
数々の名場面はあれど、私の中では、純や蛍がそばをすすっている最中、閉店だからと器を下げようとした店主に「まだ食ってんだろうが!」と父の五郎が怒鳴ったシーンが何故か今でも一番記憶に残っています。
 
その五郎役を努めるなど、存在感たっぷりの脇役として異彩を放った俳優、田中邦衛さんが3月24日、老衰のため亡くなられ、既にご家族にて葬儀・告別式を執り行ったとのニュース。
 
昭和から平成にかけての約半世紀、個性派俳優として活躍した田中邦衛さん。
 
「北の国から」の脚本家である倉本聡さんは、「必死の人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇というチャプリンの言葉があるが、邦さんの芝居はその意味でまさに喜劇。悲劇的なシチュエーションに置くほど喜劇になる。とても貴重な俳優だった。」とのコメントを残しています。
 
「北の国から」の「ジュン」に代表される独特の口調と純朴な雰囲気、不器用で厳しくも温かい男は田中さんの実像とも重ねられたとも言われ、私自身も含め多くのファンから親しまれた俳優さん。
 
享年88歳。
 
心よりご冥福をお祈りいたします。
 
さて、話しはガラリと変わり、原子力発電所に関わる裁判の話題。
 
3月18日の水戸地裁において、日本原子力発電(以下、日本原電)が再稼働を目指す東海第二発電所(茨城県東海村)を巡り、11都府県の住民らが原電に運転差し止めを求めた訴訟の判決で、地震や津波の想定などの安全対策(深層防護の1〜4)に関しては「安全性に欠けるところがあるとは認められない」と日本原電側の主張を認めつつ、避難計画などの防災対策(深層防護の5)については、「実効性ある避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い状態で、人格権侵害の具体的危険がある」との理由により、原告側の主張を認める判決を言い渡したことは以前にもお伝えしたところ。
 
同じく水戸地裁において、3月30日、今度は東海第二発電所の運転差止仮処分申立てを却下する決定が出されました。
 
日本原電においては、2020年1月に水戸地裁に申立てがなされて以降、東北地方太平洋沖地震及び福島第一原子力発電所事故を通じて得られた知見や教訓を踏まえ、様々な安全対策を講じていること等を科学的・技術的観点から丁寧に説明をしてきており、今般の決定は、自社の主張が裁判所に認められ、ご理解いただいた結果であると考えているとのコメントを発表しています。
 
また、日本原電は、東海第二発電所の更なる安全性・信頼性向上を目指し、引き続き、新規制基準に基づく安全性向上対策工事を安全第一で進め、地域の皆さまへの説明を尽くすとも述べています。
 

【安全性向上対策工事が進む東海第二発電所(新聞記事の写真を引用)】
 
 →→→日本原電ホームページはコチラから
 
つまりは、深層防護の1〜4、いわゆるハード的な安全性向上対策に関しては、ここでも司法判断の「お墨付き」をもらったと言えます。
 
一方、3月18日の判決に対して日本原電は即「控訴」をしている訳ですが、これは当然のことと思うところ。
 
理由を分かりやすく例えると、「現時点」で住民避難計画などの策定がされていないことを理由に、「今」運転することを認めないのならまだ理解も出来る訳ですが、「現時点」で整ってないからと「この先も」運転することを認めない(人格権侵害の具体的危険がある)とするのは、客観的に見ても乱暴なのではと。
 
この「避難計画」に関する判例としては既に、四国電力伊方発電所と関西電力大飯発電所の名古屋高裁判例がある訳ですが、平成30年7月4日に判決が言い渡された「大飯発電所3,4号機運転差止請求控訴事件」の判決文をご覧いただくとより本件について理解いただけるのではと思います。
 
以下、要点だけ引用します。
 
◉少なくとも人格権に基づく原子力発電所の運転差止めの当否を考えるに当たって、緊急時の避難計画が作成されていなかったり、あるいはその内容に瑕疵があったとしても,そのことによって直ちに原子力発電所の危険性が肯定されるとか、運転の差止めという結論が導かれるものではなく、そもそも当該原子力発電所について人格権の侵害を招くような重大事故等を起こす具体的危険性があるか否かが検討されるべきであり、その危険性が肯定される場合に運転の差止請求が認められるというべきである。
 
◉したがって、新規制基準がIAEAの安全基準の要求を満たしていないとして、新規制基準の内容が不合理であるとか、防災対策等の策定に不備がある旨をいう1審原告らの主張は採用の限りでない。
 
◉また、1審原告らは,福井県やおおい町の策定した地域防災計画等による防災対策の内容を縷々論難するが、上記のとおり、人格権に基づく原子
力発電所の運転差止請求の当否を考えるに当たって、基本的には避難計画の策定や内容の是非は争点とならないこと、加えて、本件発電所における安全確保対策、ないし異常の発生・拡大の防止対策、重大事故等対策に不合理な点はないことなどのこれまでの説示に照らせば、上記にいう1審原告らの指摘を検討する必要はない。
 
以上、私は理に叶った判決と受け止めます。
 
原告側は決定的な判例となることを恐れてか(勝手な私の推測です)、最高裁で争うことはしていないことからも、どちらに分があるかは明らかではないかと考えるところであり、そう思えば、原子力発電所に関するいわゆる「司法リスク」も、こうした判例を重ね合わせていけば、地裁ごと裁判官ごとでコロコロ判決が変わることも解消していくのではと。
 
私の考えの一端を述べましたが、正直ここで言っていても始まりません。
 
日本原電が控訴した次なる判決を、しかと見届けたいと思います。