「クリーンエネルギー戦略(中間整理)」のどこが「原子力を最大限活用」なのか

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4月8日の岸田総理会見において、ロシアへの経済制裁を踏まえた電力需給に関し、「夏や冬の電力需給ひっ迫を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安全保障及び脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用を図ってまいります。」と発言されたことは記憶に新しいところですが、その直後の4月12日あった資源エネルギー庁の「2022年度夏季及び冬季の電力需給」に関する会合では、一言も「原子力」の文字がなかったことから、総理の本気度はいかにと思い、以降も注視していたところ、やはり言葉面だけでやり過ごす考えのようです。
 
脱炭素社会の実現に向けて、政府が掲げる新たな戦略「クリーンエネルギー戦略」の中間整理について、今後10年間に官民合わせて150兆円の投資が必要と試算されたことなどが既に報じられていますが、経済産業省産業技術環境局・資源エネルギー庁(2022年5月13日)の実際の資料を見るに、とりわけ原子力発電に関しては何も踏み込んでないことが分かります。
 
 →→→「クリーンエネルギー成長戦略 中間整理」(5月13日 資源エネルギー庁)はこちらから
 
中間整理は、まず「はじめに」で、クリーンエネルギー戦略においては、今後進めるエネルギー安全保障の確保と、それを前提とした 脱炭素化に向けた取組について、今回のウクライナ侵略や電力需給逼迫も踏まえた対応も整理すると記載。
 
また、戦略の「位置付け」に関しては、2050年カーボンニュートラルや2030年度46%削減の実現を目指す中で、将来にわたって安定的で安価なエネルギー供給を確保し、更なる経済成長につなげるため、「点」ではなく「線」で実現可能なパスを描くとしています。
 

【クリーンエネルギー戦略の位置付け(資源エネルギー庁資料より抜粋)】
 
資料は「1章.エネルギー安全保障の確保」で、ウクライナ危機などを踏まえた安定供給の重要性の再確認やエネルギー政策の今後の方向性について、「2章.炭素中立型社会に向けた経済・社会、産業構造変革」の2部構成となっており、順次読み進めたところ。
 
注視する原子力発電については、1章中の「エネルギー安全保障(安定供給)・脱炭素化の政策の方向性」に以下のように記載されていました。
 
再稼働の推進等
◉2030年度原子力比率目標達成に向け、安全性の確保を大前提に、地元の理解を得ながら、原子力発電所の再稼働を推進
◉安全性を確保しつつ長期運転を進めていくとともに、運転サイクルの長期化等による設備利用率向上の取組を推進
 
バックエンド対策
◉関係自治体や国際社会の理解を得つつ、六ヶ所再処理工場の竣工と操業に向けた官民一体での対応、プルサーマルの一層の推進。
◉北海道2町村での文献調査の着実な実施、全国のできるだけ多くの地域での調査の実現による最終処分の着実な推進及び廃炉の安全かつ円滑な実施。
 
研究開発の取組 サプライチェーンの強化
◉わが国が培ってきた革新炉技術の官民連携による研究開発の加速や米英仏等との戦略的連携による世界標準獲得の追求
◉革新炉の国際プロジェクトへのサプライヤ参入支援、技術・サービス継承等を通じた原子力産業基盤・研究機関等の維持・強化
 
ご覧いただく通り、原子力については、東日本震災後、新規建設がなくなり、技術や人材の維持が喫緊の課題としながらも、今後の方向性については、新型炉の研究開発や国際連携といった程度の記載に留められ、将来どのように活用していくかの具体的な内容に踏み込んでいないことがお分かりいただけるかと思います。
 
再稼働に関しても、震災から11年が経過して10基の稼働に留まっている要因は、「地元の理解」ではなく「審査の長期化」であり、有識者や経済界、産業界、原子力立地地域が求めているのは、既に実績がある「軽水炉」での「新増設・リプレース」であるのに対し、先の長い「革新炉」に現実逃避しているようにしか思えないのですが、そう感じるのは私だけでしょうか。
 

【原子力発電所の現状。再稼働は遅々として進んでいない。(資源エネルギー庁資料より抜粋)】
 
いずれにしても、このクリーンエネルギー戦略なるものが、今回のウクライナ侵略や電力需給逼迫も踏まえた対応も整理すると言うのであれば、このような悠長な認識ではなく、今ある本質的な課題や要因を掘り起こし、一刻も早く解決に向けて進めるのが先決であると考える次第です。
 
つまりは、安全を何よりも優先することを大前提に、再稼働に関しては、原子力規制審査の迅速化(審査基準を緩めよとの意味ではなく、審査体制強化や並行審査を可とするなどの意)、短期的には軽水炉での新増設・リプレース、中長期視点では革新炉開発を進める。
 
ここまで述べてこそ、「原子力の最大限活用」と言えるのではないかと。
 
昨年秋に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の域を出ない「戦略」では、日本の将来が危ういと真剣に考える立場として、国の本気の姿勢を政策に表して欲しいと考えて止みません。
 
ロシアのウクライナ侵略で状況は一変し、世界各国も「お花畑」の世界から「超現実」路線に舵を切っている訳ですから。
 

【我が国産業の課題。設備投資や研究開発に費用を投じなければ世界との差はどんどん広がるばかり。(資源エネルギー庁資料より抜粋)】