深刻な今冬の電力需給見通し。要因は明らかだ。

エネルギー ブログ

先般はこのブログで、エネルギー基本計画が閣議決定されたことに対する受け止めを述べましたが、拙速に意思決定する必要があったのは、10月31日から英国グラスゴーで開催される国連気候会議・COP26(正式名称:気候変動枠組み条約第26回締約国会議)を睨んでのこと。
 
このCOP26に対し、キャノングローバル研究所主幹の杉山太志氏は、「おそらく膠着状態となり、事実上は何の成果もなさそうだが、中国だけは最大限の利益を得ることになりそうだ」との見方を示しています。
 
中国の習近平は9月に「海外の石炭火力発電事業への資金提供を止める」と発表し、先進各国の称賛を受けたものの具体的な内容は無く、いつから止めるかなどは明確にされていないにもかかわらず、COP26が近づくにつれ欧米の政権は、さほど中国の体制を非難しなくなった。このような形で、COP26の裏では「気候変動」を人質に取り、先進各国を操る中国の姿が予想されるのだとの背景も述べています。
 
また、この4月に米国が開催した気候サミットでは、G7諸国は軒並み「2030年にCO2半減、2050年にはゼロ」を宣言しましたが、G7も言っているだけで実行不可能であるのみならず、欧州ではすでに無理な再エネ依存の政策が祟ってエネルギー価格の高騰が政治問題になっており、早晩、G7の無謀な数値目標は問題視され、見直しが入るだろうとの見解も示しており、私もそのように考えるところであります。
 
そしてこの日本を見れば、現実としてあるのは、この冬の「電力受給逼迫」。
 
27日に公表された経済産業省総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会における「2021年度冬季の需給見通し・対策」によれば、今冬は、安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できているものの過去10年間で最も厳しい見通しとなっているとのこと。
 
資料には、「広域機関によると、今冬の電力需給は、10年に1度の厳しい寒さを想定した場合にも、全エリアで安定供給に必要な予備率3%を確保できる見通し」とする一方、東京エリアは1月に3.2%、2月に3.1%と3%ギリギリとなっているほか、2月は 中西日本6エリア(中部、北陸、関西、中国、四国、九州)で3.9%となるなど、極めて厳しい見通しとなっている」とあります。
 

【総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会(第40回)の資料より抜粋】
 
予備率3%というのは、どこかの発電所や送電網でトラブルがあれば一発でマイナスとなる危険域であり、詳しくは以下のリンクからご覧いただければと思います。
 →→→2021年度冬季の需給見通し・対策(経済産業省HPより)
 
こうした状況となることを以前から指摘していた国際環境経済研究所の竹内純子氏は、次のように述べています。
 
こんな事態になっている原因は複合的ですが、①福島事故により抜本的に見直された原子力安全規制対応のために原子力発電所は殆ど停止、②再エネが補助制度により大量導入されたため、火力発電は再エネの調整・バックアップ役になる。いざという時だけ頼りにされても、メンテナンス費用も十分回収できないので火力発電は廃止しようということになる。自由化されたので供給責任も負ってないし、といった状況です。
 
喫緊出来ることとして、②に書いた理由で廃止する予定だった火力発電や、電力足りない時に電気の使用を停止する需要家を「公募」を実施して、お金払って再立ち上げしてもらったり、いざという時は止めてもらうということで、東電管内は何とか3%予備率確保までたどり着きました。
 
これ以外にできることというと、原子力の再稼働です。基本的な安全対策はすべて終わっているのに、テロ対策設備追加の猶予期限終了に伴い、先日停止させた美浜発電所3号機など、「本当に今止めなければだめか?」を考えることは一つあり得ます。が、原子力規制委員会は、原子力発電所の安全性だけ考えれば良い組織として設立されているので、エネルギー不足によるリスクなどは「考えなくて良い」のです。米国では、原子力規制委員会とエネルギー省を議会がブリッジするかたちで、リスクを総合評価しますが、日本は放置。
 
総合的に考えて「それでも動かさない」と覚悟するなら良いのですが、今は議論すらない訳です。
 
メディアでも、それぞれの事象が単発で伝えられることが多いですよね。美浜発電所の停止は原子力の問題、火力発電は気候変動対策の文脈、電力不足はこの冬の事象あるいは生活への影響みたいな形で伝えられることが多いので、日本のエネルギー政策の歪みや軋みが消費者の皆さんにもわかりづらいだろうと思います。
 
以前、原子力発電所を使わないリスクを述べたときに「命か経済か」と言われましたが、値上げや電力不足も、命の問題を引き起こします。
 
こちらも全くもって、私も同感な訳ですが、国民の皆さんはどう受け止めているのか。
 
特に、再エネとバックアップ電源の関係を述べた②に関しては、冒頭のエネルギー基本計画通り進めれば、ますますこの状態が顕著になることは明らかであり、夏も冬も需給逼迫に怯えながら生活しなければならなくなります。
 
ここにはありませんが、既に世界各国の資源獲得競争による原油や液化天然ガス(LNG)の価格高騰は現実問題となっており、これはいずれ電気料金にも転嫁される訳であり、各ご家庭、とりわけ企業にとっては死活問題ともなりかねません。
 
決して脅しで申し上げているものでないことをお分かりいただきたいと思いますが、エネルギーはこうして全てつながっています。
 
とりわけ資源小国の日本は、このような状況を真剣に考え、後悔した時には取り返しのつかないこと(原子力や火力の人材、技術を失うなど)になると警鐘したうえで、「命も経済も」守るエネルギー政策でなければ生き残れないことを、皆さんにも是非ご理解いただきたいと強く思う次第です。