最も決定的な要因とは「人間の意志」である

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米国とイスラエルによるイラン攻撃は開始から2カ月が経過しようとしていますが、米エネルギー情報局(EIA)が「世界で最も重要な石油輸送のチョークポイントの一つ」と位置付ける“ホルムズ海峡”は、いかに海上交通の要衝であるかを痛感するところ。
 
この戦闘に関しては、21日にトランプ米大統領がイランとの停戦延長は「望まない」とCNBCテレビに語るなど、未だ混沌とした状況にある中、13日の電気新聞“でんき論壇”に非常に興味深い記事が。
 
『「台湾有事」におけるエネルギー供給リスクとは』と題したこの記事でまず注目するのは、ホルムズと同じ“海峡”について。
 

 
記事で引用されていた、背筋に汗が流れるこの図は、米海軍情報部が2015年に公表した、中国人民解放軍(PLA)の海洋領域における軍事力の拡大を示したイメージを筆者著『海洋戦略論』で引用したもの。
 
図のとおり、2015年の時点でPLAの弾道ミサイルや潜水艦の威力圏は南シナ海やフィリピン群島海域の大半をカバーしており、そこからさらに10年以上が経過し、PLAの作戦能力は一層拡大し、フィリピン東方や日本の本州南方、あるいはインドネシア・豪州周辺海域におけるPLA海空軍の演習や作戦行動は常態化していること。
 
また、“海峡”に関して言えば、いわゆる台湾有事が長期化した場合、台湾島および南シナ海の大半、そしてバシー海峡は戦域となって民間船舶の航行は非常に困難となり、このことは日本が事態にどこまで関与するか否かは関係なく、第三国の民間船舶に対する攻撃は国際法上違法であるが、1980年代のイラン・イラク戦争(タンカー戦争)やウクライナ戦争における黒海での穀物運搬船舶への攻撃、そして現在のホルムズ海峡の状況をみれば、国際法上違法であったとしても無差別な武力攻撃のリスクは常に存在する
 
従って台湾有事に際し一般的にオイル・ルートとされるマラッカ海峡~南シナ海~バシー海峡、「マラッカ・ルート」は事実上閉鎖されるとみなすべきであり、スンダ・ロンボク海峡など迂回路を確保する必要があると筆者は指摘していました。
 
確かに日本はLNGをほぼ輸入に依存し、2023年の税関統計によれば約43%を豪州、約19%を南シナ海に面したマレーシアおよびブルネイの油田から輸入しているほか、パプアニューギニアやインドネシアから10%強を輸入しており、前述したマラッカ・ルートが事実上閉鎖されるのであれば、マレーシア・ブルネイからのLNG供給は非常に困難となり、可能であっても大幅な迂回路を経由することで価格の高騰を招くであろうことは、日本のエネルギー安全保障に直結すリスクと理解する次第です。
 
そして、もう一つ注目したのは、「人間の意志の問題である」との言葉。
 
冒頭述べたよう、米国・イスラエルとイランの軍事衝突が長期化するか否かは分からないものの、一方で2022年2月に始まったウクライナ戦争はすでに4年が経過し、その終結は全く見込めない状況にあること。
 
歴史を振り返れば、太平洋戦争やソ連がナチス・ドイツと戦った大祖国戦争が4年弱で終結したことを考えれば、この戦争がいかに国家と国民を消耗させるのか、ということを伺い知ることができ、筆者を含めた軍事・安全保障の実務者や研究者の多くは、21世紀にこれほどの長期消耗戦が欧州において生起することを予見できなかったが、なぜこうした消耗戦が長期化しているのか、と問われたならば、重要な答えの一つは「人間の意志の問題である」、といえる
 
侵攻当初、せいぜい数週間で戦闘は終結すると見込んでいたロシアの政治・軍事指導者の目論見(もくろみ)は侵攻初日のゼレンスキー大統領はじめウクライナ政治指導者たちの「我々はここにとどまって戦う」というインスタグラムの動画によって完全に覆され、戦略環境は瞬時に激変した。
 
現代の世界においても戦争の帰趨を決する最も決定的な要因とは「人間の意志」である、ということをウクライナ戦争は改めて示したといえる、との考えに至極納得。
 
当たり前と言えばそうなのですが、米国・イスラエル、イランの首脳それぞれの思惑のもと、意思の探り合い、ぶつかり合う状況を鑑みれば、一層説得性が高まるところ。
 
ここからは記事にありませんでしたが、想定される台湾有事が「人間の意思」によって長期化した場合、先にあった安全保障上の大きなリスクを抱える日本側の「人間の意思」はどうなるのか、いやどうするのか。
 
有事を現実のことと見据え、直面した時の人間、言い換えれば「国家」の意思のあり方、意思決定のあり方をシュミレーションしておくことが極めて重要と思う次第です。