労いの拍手を送る「9基の火力発電所」の「散り際」

エネルギー ブログ

昨晩は、とある会合に出席するため福井市内へ。
 
この時期の福井市といえば「足羽川の桜」ということで、会合後に立ち寄ってみると、満開とまではいかないもののライトアップされた見事な桜に出会うことができました。
 
コロナ禍ということもあり、シートを敷いてまでの花見客はいないものの、多くの方が河川敷や堤防からの夜桜を楽しんでおられ、やはり日本の心ここにありと感じた次第です。
 

【画角一杯に広がる夜桜】

【ライトアップされた桜が並ぶ足羽川堤防と三日月】
 
さて、このように満開に向かう桜もさることながら、この後迎える「散り際」の美しさと重なることが昨晩の会合でも話題に挙がりました。
 
それは東京電力ホールディングス(HD)と中部電力が折半出資するJERAが3月31日に発表した、大井火力発電所1~3号機、横浜火力発電所5・6号機および知多火力発電所1~4号機の9基を廃止するとの件について。
 
いずれも長期計画停止していた発電所であるものの、廃止される9基の出力合計は383.3万kWに及ぶとのこと。
 
同社は同日公表した中において、「現在、他地点の火力発電所においてリプレース工事(計666万kW)を進めております。引き続き、地域の皆さまおよび関係各所のご理解・ご協力をいただきながら、エネルギーの安定供給に努めてまいります。」としており、電力自由化の競争環境の中、長期使用設備の維持費用や投資回収の面を考えれば、古い発電所を廃止し、新しいものに置き換えていくとの経営判断は致し方ないものと受け止めるところです。
 
廃止するのは原油や液化天然ガス(LNG)を使う発電所で、全て2016~17年から計画的に稼働を止めていた訳ですが、いずれも1960~70年代に運転を始めたものであり、稼働開始から約50~60年もの間、わが国の成長を支える電源供給を担ってくれたことに感謝しかありません。
 
こうして役割を果たし廃止に向かう9基の姿は、先ほどの「散り際」とまさに重なるものであり、私としては心から「お疲れ様でした」との思いを込め、労いの拍手を送りたいと思います。
 
なお、リプレースする横須賀火力(神奈川県横須賀市)や武豊火力(愛知県武豊町)、姉崎火力(千葉県市原市)、五井火力(同)の計9基出力は計666万キロワットで、今回廃止を決めた発電所の合計出力を上回るものの、全て稼働するには2年程度かかるため、すぐに供給力を増やせない状況となります。
 
3月22日にあった政府初の「電力需給逼迫警報」、東電PGや東北電力供給域内における企業や一般家庭にできる限りの節電要請など、ただでさえ電力需給は綱渡りの状態にあることは周知の事実ですが、資源エネルギー庁が2022年1月に公表した2022年度の電力需給見通しによると、2023年1~2月は東京と中部の2地域で電力の安定供給に必要な供給余力(予備率)が3%を下回り、2022年7~9月は3%を上回るものの「依然として厳しい」としています。
 
これらは3月16日の福島県沖の地震の影響(影響を受けた火力発電所の長期停止)は含んでおらず、この夏、そして次の冬も逼迫状況が続くことは明白な状況となっています。
 
供給力の予備力が低下する中、旧一般電気事業者(新電力でない元々の電力会社)が長期稼働停止中の火力発電所の再稼働などで必死の対応を図ってきましたが、常態化してしまった夏冬の電力安定供給への懸念をどう払拭していくのか。
 
私からすると、悠長過ぎ、危機感なさ過ぎ、旧一般電気事業者に頼り過ぎの3拍子揃った政府の対応には忸怩たる思いが募るばかりですが、原子力発電所の取扱いや環境性能の高い火力発電所の新設を後押ししていくような政策を含め、現状を打開する方向に舵を切るべきと考える次第です。
 
何度も言いますが、こうした政治対応の遅れの影響を受けるのは、国民生活や企業活動であり、ひいては国益を大きく失することにもつながりますので。