仏マクロン大統領が「原子力ルネサンスを成し遂げる」と宣言

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北京オリンピックで沸く一方、緊迫高まるのがウクライナ情勢。
 
多くの国が自国民にウクライナからの出国を促しているのを踏まえ、外務省は昨日、事態が急速に悪化する可能性が高まっているとして、全土の危険情報を最高度の「レベル4」(退避勧告)に引き上げるとともに首相官邸も同日、危機管理センターにウクライナ情勢に関する官邸連絡室を設置しました。
 
ロシアから欧州への重要なガス供給経由地であるウクライナがこうした事態となっていることで、ただでさえ「エネルギー危機」の欧州では輪を掛けて必死のエネルギー調達(特にLNG)や各国では電気料金が異常な上昇となっており、「究極のリアリスト」プーチンが狙うのは、「侵攻」をチラつかせることにより「(エネルギー供給で)真綿で首を絞め」、西側諸国に自国の影響力を誇示しているようにも見えます。
 
日本はこれだけ国内の電力需給逼迫が深刻さを極める中、「安定供給に影響のない範囲」で欧州にLNGを融通するとしており、体裁を整えるだけの欧州支援にどれだけの意味があるのか頭をかしげる訳ですが、この軍事行動の真の狙いはプーチン大統領のみぞ知るというところ。
 
私としては「領土侵略戦争」でなく、「エネルギー戦争」でもあるとの認識で、今後も情勢に注視していきたいと考えます。
 
こうした中、これはこれで現実的とはいえ、驚いたのがフランスの採った選択。
 
フランスのマクロン大統領は10日、エネルギー政策について、最大14基の原子力発電所を新設する計画を発表。
 
また、既存原子力発電所については、原則40年とされる稼働期間を「50年」に延長する方針も示すとともに、地球温暖化対策を進めながらエネルギーの自立を確保するため、原子力発電は必要だと訴えました
 
ご承知のように、フランスは電力の70%を原子力発電に依存する「原子力大国」。
 
既に稼働した原子炉が現在56基あるものの、新規着工は2007年が最後であった訳ですが、マクロン氏は2011年の福島第1原子力発電所事故後、世界的に原子力の「氷河期」だったとしたうえで、「フランスは原子力ルネサンス(再生)を成し遂げる」と宣言しました。
 
具体的には、新設機をフランスが開発した「欧州加圧水型炉(EPR)」の改良形とし、2050年までに最低6基を稼働させたうえで、さらに8基の新設を検討すると述べ、小型モジュール原子炉(SMR)についても開発を目指すとしています。
 
併せて、太陽光や風力発電所の増設計画も示しており、まさに「現実的なエネルギーベストミックス」を目指すとしたことに賛同しかありません。
 

【仏東部ベルフォールにある米ゼネラル・エレクトリック(GE)のタービン工場で演説するマクロン大統領】
 
なお、フランスでは今年4月の大統領選挙に向け、原子力政策が争点の一つとなっており、再選を狙うマクロン氏が推進姿勢を鮮明にした形。
 
極力波風を立てず、原子力の扱いを争点化させない日本とは全くもって真逆であります。
 
欧州を始め、世界の動きはこれまでもお伝えしてきているところですが、日本でも東日本大震災前にあった「原子力ルネサンス」(この場合、原子力比率を50%に高めるとの意味)が実際にフランスで湧き上がってきています。
 
福島第1原子力発電所事故の反省に立ったうえで申し上げれば、事故の教訓を最大限反映した安全性を大前提に、この日本でも原子力発電を今後も活用せねば立ち行かないことは明白な事実。
 
さらに、これ以上の原子力政策の停滞は、原子力人材や技術の喪失にも直結することを思えば、もう待ったなしのところまできていることから、岸田政権においてはぜひ、フランス政府の対応も視野に「現実的な政策判断」をしていただきたいと切望いたします。