「おぼろげながら浮かぶ」数字が一国の目標で許されるのか

エネルギー ブログ

24日のブログにて、菅総理大臣が気候サミットで国際社会に表明した、2030年度の温室効果ガス削減目標「2013年度比46%削減」を目指すとしたことに対し、達成に向けた道筋は、覚悟と責任ある政策(エネルギー基本計画など)で示すべきと記載したところですが、何ともそれ以前の話しであることが、小泉進次郎環境大臣へのインタビューで判明しました。
 
このTBS系のインタビュー記事では、日本が掲げた新たな目標である、温室効果ガスを2030年度までに「46%削減」するという点に対し、旗振り役である小泉環境大臣が発言した言葉は、「くっきりとした姿が見えている訳ではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。「46」という数字が。シルエットが浮かんできたんです」だと。
 
国際社会に表明する数値であることはさることながら、国内産業や国民生活にも大きな影響を及ぼし、さらには、只でさえ達成は極めて困難だと揶揄されている「46%削減」を「おぼろげながら浮かんできた」、「シルエットが浮かん出来たんです」と「根拠はありません」と堂々と語る姿に、思わず「何じゃそりゃ!」と呆れるを通り越し、沸々と怒りさえ湧いてきた次第。
 
また小泉環境相は、「(46という数字は)自分の中では分かった感じで話している。僕の中では全くおかしくない」とも述べています。
 
「おかしくない」とまで仰られ、ご自身の中に達成に向けたロジックがあるのであれば、46%削減の積算根拠を明らかにしていただくべきであり、それもなく「自分は分かっている」と言われても、各界、国民ともに到底理解することが出来ないことは明白。
 
さらに、削減目標をオリンピックのメダルに例え、「意欲的な目標を設定したことを評価せず、一方で現実的なものを出すと「何かそれって低いね」って。「金メダル目指します」と言って、その結果、銅メダルだったとき非難しますかね」と述べつつ、温室効果ガス大幅削減の鍵は、再生可能エネルギーの活用だと強調し、「窓の外に東京の代表的と言っていいのか、高層ビルがいっぱい並んでますね。この景色が変わりますよ。見てください、空いている屋根がいっぱいありますでしょ。太陽光をできる限り置いていきたい」。
 
ここまで読んで、どれだけ無責任なのか、どれだけ頭の中にお花が咲いているのか、正直、一国の閣僚が話すに値するものではないと心から思った次第。
 
記事では、「現実的には、どれだけ積み上げても30%台後半が限界だった。それ以上の数字は、環境省と小泉環境相が背負っている」との経産省幹部の「恨み節」も聞こえてくるとありました。
 
現に、小泉大臣が希望を託す再エネは、現在の温室効果ガス削減目標「26%」において、比率22%~24%設定で、このうち太陽光発電は7%に過ぎず、46%削減を目指すには、かなりの増設と費用負担が求められます。
 
併せて、産業界においては、今年6月にEUが打ち出す国境炭素税導入なども睨み、トヨタの豊田社長始め、日本製鉄なども日本脱出を示唆しています。
 
具体的道筋も持たない「46%」と聞けば尚のこと、身を削ってまでも(コストや雇用への影響との意)協力する意味合いがどこにあるのか、夢物語に付き合えないと民間企業が考えるのも致し方ないところですが、そうすれば国内総生産は落ち、国力の低下することにもつながるとあっては、一体何のための、誰のための削減目標なのかと言わざるを得ません。
 
一方で、温室効果ガスの排出量を抑えられるとされる原子力発電の扱いについて、現在、建設中も含め全国に36基ある原子力発電所のうち9基が再稼働している状況を踏まえ、果たして「46%削減」という高い目標の達成に向けて、さらに再稼働を進めていくのかについて。
 
「再生可能エネルギーを優先するなかでも、(2030年まで)あと9年しかない。原子力発電所に頼っていく可能性はありうるか?」とのキャスターの問いに対し、小泉環境相は、「再エネを出来るだけ入れていく。もしも(再エネが)入らなければ、他の電源をどのように活用するかという話になる」と明確な考えを示すことはありませんでした。
 
ちなみに、原子力発電に関しては、2030年に向けた比率の試算として、先の原子力小委員会であった資料には、廃止措置に移行した原子力発電所以外のすべての発電所が再稼働、かつ定検周期見直し(延長)など、設備利用率を高めた場合で「29%到達」との試算結果があります。
 

【第21回原子力小委員会(2021年2月25日)電気事業連絡会資料より】
 
確立した技術であり、温室効果ガス削減に寄与度の高い、原子力の比率を最大限高め、「46%」を目指すと言うのならまだ分かりますが、小泉大臣が言うことは120%ないでしょう。
 
twitter上では、文化人放送局MCの加藤清隆氏が、「活力ある経済大国を目指すなら原理主義者の集まる環境省は廃止し、経産省環境局か防衛省環境課ぐらいに格下げすべきだ。菅首相の人事中最大の誤りが小泉進次郎環境相だった事情は既に明らか。グレタさんに取り入ろうとする進次郎氏ではなく、批判的な人、せめて半グレ程度の人物と入れ替えるべきだ」とまで述べています。
 
誤解なきよう最後に申しますが、私は何も、好き嫌いで小泉大臣のことを言うのでなく、こうしたぼんやり浮かぶイメージだけの政治では、国際競争での敗北はもとより、残るのは国民・経済の疲弊、つまりは国益を失することにつながることを危惧して申し上げております。
 
大臣が語るのは、銅になってもいいのでひとまず金メダルを目指すなんてことではなく、出場するからには金メダルを目指す、そのための練習方法やスケジュール(達成に向けた具体的方策)はこれだ!と具体策をもって、明確に分かりやすく国民に説明することだと強く思うところであり、それは得意のワンフレーズ・ポリティクスでは到底叶うことではないと考える次第です。