言うならば「原子力のコストに大幅な上昇なし」〜総合資源エネルギー調査会「発電コスト検証ワーキンググループ」議論を踏まえ〜

エネルギー ブログ

2030年に向けたエネルギー政策、いわゆる次期「第6次エネルギー基本計画」策定に向けた検討を行っている、経済産業省総合資源エネルギー調査会(経産大臣の諮問機関)「基本政策分科会」が昨日開催され、「2050年シナリオ分析の結果比較」や「発電コスト検証に関する議論」などに関する報告資料をもとに議論がされました。
 
共同通信配信のネット記事によれば、
 
エネルギー基本計画の改定案を21日開催の有識者会議に提示する方針を固めたことが13日、分かった。
併せて示す2030年度の電源構成目標で太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を引き上げ、脱炭素社会の実現に向けた姿勢を明確にする。
有識者会議での議論を踏まえて8月上旬に改定案を決定し、パブリックコメント(意見公募)を経て10月までに閣議決定する見通しだ。
基本計画の土台となる30年度の電源構成目標は、再生エネを現行目標の22~24%程度から36~38%程度に引き上げる方向。原子力は20~22%程度の目標を維持し、残りを火力などで補う考えだ。
 
とあるものの、これに関してはまずYouTubeでも配信されている「基本政策分科会」での議論を正確に把握することに努めたいと思います。
 
さて、昨日の基本政策分科会でも報告された「発電コスト検証に関する議論」ですが、実はこれは、その前日12日に開催された同省総合資源エネルギー調査会の「発電コスト検証ワーキンググループ」(WG、座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長・研究所長)でこれまでの議論を暫定的に取りまとめたものについて報告がされたもの。
 
2030年のエネルギーミックス確定後に再度WGを開き、発電コスト検証を正式決定すると位置付けているものですが、昨日の新聞各紙には、この暫定取りまとめの結果を受け、「太陽光が初めて原子力のコストを下回る」との見出しで掲載されていました。
 
本WGで提示された資料は、既に経済産業省ホームページに掲載されているため、こちらも正しく事実を把握する観点から全て目を通した訳ですが、この日までに6回に亘り行われてきた131ページに及ぶ内容は読み応えがあるとともに、複雑且つ多岐に亘る前提条件設定、モデル試算のうえに算出されていることが改めて分かりました。
 
 →→→総合資源エネルギー調査会「発電コスト検証WG」第7回会合 資料2はこちら
 
資料は、「総論」として、考え方や概要を示したうえで、「各論」で再エネや火力発電、原子力発電など各電源ごとの試算結果を報告する形で構成されおり、先にありました「太陽光が原子力のコストを下回る」と表現された電源別のコスト一覧は以下のスライドにまとめられていました。
 

【2030年の電源別発電コスト試算の結果概要】
 
これで見るとおり、原子力発電が11円台後半〜に対し、太陽光(事業用)は8円台前半〜11円台後半、また初期投資や事故補償などの政策経費(グラフの緑色)を除いた分では、原子力発電が10円台後半〜に対し、太陽光(事業用)は7円台前半〜11円台前半となっていることが分かります。
 
また、太陽光(事業用)の設備利用率17.2%は、低く見積もって70%の原子力と比べ大変に効率が悪い訳ですが、資料では、再生可能エネルギー(太陽光:住宅用・事業用)の将来(2030年)の発電コストの考え方については、「設備利用率については、近年上昇が進んでいるものの、将来的には立地制約によって設置可能面積が限定されることや出力制御による影響も考えられ、これらの影響を織り込んで一概に予測することは困難であることから、一定とすることとした」、「なお、(太陽光)パネルの出力劣化については、設備利用率の実績や一意に特定することの困難さ等をふまえて、考慮しないことを基本としつつ、参考として、IEA/OECD NEA「Projected Costs of Generating Electricity 2020」をふまえて、パネル出力劣化率 0.5%/年を仮定した機械的な試算結果を示すこととした」などとされています。
 
私は、再生可能エネルギー否定論者でも何でもありませんが、こうして見ても、この極めて不安定で設備利用率の低い太陽光発電を優先して使用していく、いわゆる「主力化」していくことは、例えば、本来ベースロードの原子力などの深夜電力を用いる水力の揚水を、昼間の太陽光で余った分を充てることによるロス、逆に供給不足になる際に必要となるバックアップ電源である火力発電の起動停止回数増による負荷増大、トータル設備容量としての増、そして再エネ賦課金など国民負担増など、あらゆる負荷が生じることを分かっていて、非効率な電源供給とするおかしな構造になることも良く分かります。
 
その証拠に、資料では、「直接の経済的影響」とし、電力システム全体のコスト (Grid-level System costs)のうち、プロファイルコストについて、
• 再エネ発電量が不確実なため、システム全体として多くの発電設備容量が必要になる。
• 既存の発電設備の利用率が低下する。
• 平均的な電力価格は下がるが、価格変動幅は非常に大きくなる。
• 投資の予見可能性が損なわれ、発電設備投資が進みにくくなる。
• 長期的にはベースロード電源が減りピーク電源が増えるため電力価格が高くなる。
と括られています。
 
さらにここには、バランシングコストや系統・接続コストなども掛かることも併せて認識しておきたいと思います。
 
新聞にはこうした詳細まで表現されていない訳ですが、それにしても見出しの「太陽光が原子力のコストを下回る」に関しても、正しくは「試算の前提を変えれば、結果は変わる」ということ。
 
これは、同じく試算の大前提となる「発電コストの計算方法」の一番最後で、このワーキンググループ自体が明確に述べていますので、本件を理解するうえで重要な点かと存じます。
 

 
【モデルプラント方式①(発電コストの計算方法)】
 
つまりは、これはひとつの仮定のもとでの評価であり、コスト評価に関して、まだまだ不確実性の高い太陽光(複雑な前提条件があり過ぎる)、ある程度確実性の高い原子力(福島第一原子力発電所事故を踏まえた補償費用の実績反映など)をどう捉えるかによって、表現も変わるに過ぎないということかと考えます。
 
今回も見出しの付け方を変えれば、「原子力のコストに大幅な上昇なし」とすることも出来ます。
 
電気新聞では、エネ庁担当者も「この数字をもって高い安いは言えない」、この日の会合でも有識者からは「数値の独り歩きを懸念」する声が目立ったとの記載がありました。
 
実際のデータ、議論から見えることと報道の表現はここでも違うということが改めて良く分かったのと、事実を正確に把握することで自分の考えに軸を持つとの観点から、次は、昨日の「基本政策分科会」の内容もしっかり確認していきたいと思います。