欧州大陸で衰えつつある「脱炭素」の勢い

エネルギー ブログ


 
写真は、熊本県阿蘇の大地を覆う無数の大規模太陽光発電施設(メガソーラー)。
 
最大の地域は東京ドーム25個分、約20万枚もの巨大パネルが並ぶ状況に、地元住民や自治体からは景観破壊で世界文化遺産登録が危ぶまれるとの声が挙がっており、雄大な阿蘇の景色が様変わりしてしまったことに憤りを感じるところです。
 
2012年に国の「再生可能エネルギー固定価格買取制度」が始まると、設置計画が次々と出始め、「阿蘇くじゅう国立公園」の周辺10ヶ所ほどの場所にメガソーラーができたとのことですが、この太陽光発電について。
 
昨日の新聞記事によれば、太陽光発電施設の投資物件売買サイトへの売却依頼が急増し、今年1~6月は前年同期比約2.3倍となったことが分かったとのこと。
 
送電容量の関係から、再生可能エネルギーの発電事業者に一時的な発電停止を求める「出力制御」が今年過去最大となり、事業継続の不安が高まったとみられ、2019年では54件だった売却依頼件数が、2020年は240件、昨年は686件と年々増加傾向にあるとも。
 
つまりは、採算が取れないと判断するやさっさと市場から撤退する事業者がこれだけ存在するということかと思いますが、このような状況を見るに、第6次エネルギー基本計画において、再エネ比率36~38%(2030年)とする「野心的な」目標自体、達成する見込みは極めて低く、ましてや再エネの「主力化」をめざすとする政策自体を見直さねばならない、直感的に考えるところです。
 
そうしたなか、キャノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は、政治的視点からこう述べています。
 
英国のリシ・スナク首相が、英国の脱炭素政策(ネットゼロ)に誤りがあったので方針を転換すると9月に演説して反響を呼んでいる。この演説はもっと重要な内容を含んでいる。具体的な政策について述べただけではなく、首相がこれまでの英国政府の誤りを指摘し、今後の方針を明確に述べたからだ
 
欧州大陸でもこれまでのような脱炭素の勢いは衰えつつある。ドイツは「エネルギーベンデ(転換)」というスローガンの下、最も急進的なエネルギー政策を取ってきた。脱炭素推進だけでなく、脱原発も同時に進めてきた。だが、これまで頼ってきた安価なロシアの天然ガスが入手できなくなり、エネルギーコストが高騰し、エネルギー集約産業は苦境に立ち、産業空洞化に拍車がかかっている。
 
欧州大陸では既に右派ないし右派中道政権が次々に誕生しており、さらに広がりを見せるかもしれない。そうすると、欧州でも脱炭素の見直しは進むことになるだろう。
 
日本政府は今も脱炭素一色である。だが気が付けば旗を振っていた欧米諸国が全く違うことになっているかもしれない。リスク管理としては、動向を注視する必要があるだろう。これは企業についても言えることだ。
 
そして日本として脱炭素一色のままでよいのか、エネルギー政策のあり方も再考すべきである。まずはスナク英首相に学んではどうか。日本政府は脱炭素で「グリーン成長する」という、経済学の初歩を無視した主張を展開し、コストがかからないフリをして国民を欺いてきた。日本も過去の過ちを認め、コストについて精査し国民に正直に語るべきだろう。
 
仰ることはごもっともと深く頷くところですが、これを示すのが、次期「第7次エネルギー基本計画」。
 
国際情勢が変化しつつあるのであれば尚のこと、日本だけ「夢物語」のままではいけません。
 
「望みなどの、身分不相応に大きいさま」を意味する「野心的な」政策から早く目を覚まし、今後は真に現実的なエネルギー政策論議に進ことを期待して止みません。