再現したい将軍への献上品「疋田鮎鮨」

ブログ 敦賀の歴史・文化

「食文化ストーリー」として、先月はフランスのパリに使節団を派遣し、「昆布」の文化・技術を世界に発信してきた敦賀市。
 
「昆布」は、まさに敦賀の歴史において欠くことのできない食であり、北前船ともつながる文化であることは言うまでもありませんが、昨日はまさに食に関わる「地域史を知る面白さ」ここにありと感じたところ。
 
その機会とは、気比史学会と敦賀市立博物館共催の「市民歴史講座(第6講)」であり、中でも、徳川家の将軍にも献上されていた「疋田鮎鮨(あゆずし)」の存在を知ることができたこと。
 
きらめきみなと館小ホールにて開催された講座では、京都大学名誉教授の藤井讓治先生をお招きし、「献上品から見た近世敦賀の名産 ー疋田鮎鮨を中心にー」をテーマに、約1時間半、大変興味深く拝聴させていただきました。
 

【丁寧に敦賀の「食の歴史」を紐解いていただいた藤井讓治先生】
 
講座では、17世紀前半の北陸道の名産を記した「毛吹草」(江戸前半の俳書)で、越前や若狭には、加賀や越中など他の北陸の地よりも多くの特産品があったことや、将軍への毎年の献上品を指示した「酒井忠勝書下」の「御自分日記」には、目指や刺鯖、初鮭や初鱈などに加え「疋田鮎鮨」と記録されているとありました。
 
恥ずかしながら、私は「疋田鮎鮨」を初めてここで知った訳ですが、御自分日記には、万治2年7月6日「今日御国之匹(疋)田鮎鮨 御城上ル」とあり、江戸時代後期には献上されなくなった(注)ものの、それまでの間、愛発の疋田から歴代将軍に献上されていたことを学ぶことができました。
※注:秀吉の頃から続いてきた献上が、5代将軍徳川綱吉の代で、生類憐れみの令によって取り止めになったとの説がある(敦賀女子短期大学(現在は市立看護大学)多仁研究室 1996年度調査記録より)
 
敦賀では今も「鰊(にしん)ずし」が有名で、私も大好物ですが、この「鮎鮨(ずし)」もいわゆる「シャリ」のある「寿司」ではなく、「なれずし」のことで、敦賀が誇る特産品だったことが、講座で紹介された史料からも分かりました。
 
(投稿後修正)
史料より、疋田鮎鮨は、魚のみを食す「なれずし」ではなく、魚のほかご飯も一緒に食す「なまなれ」であることから修正いたします。

さすが将軍への献上品だけに、今で言う「品質」にバラツキ無きよう、江戸まで運ぶ日数から逆算して漬ける日数や数量までルールとして決めていた記録もあり、藩主が相当に気を使っていたことにも驚きましたが、さらに驚いたのは、疋田では鮎を「鵜飼」で獲っていたということ。
 
鵜匠は三方(五湖)から伝わったと考えられているそうですが、興味深いのは、疋田の鵜飼は自分で鵜を持たず、近江から借りていたとのこと。
 
そうした不思議、疑問が歴史の面白さかもしれませんが、後で参加者の方から伺うに、疋田の鵜飼の手法は、今でも有名な「長良川の鵜飼い」の元になったとのことであり、ルーツになったと聞けばまた敦賀のことを誇りにも感じた次第です。
 
そして気になる鮎鮨の製法については、敦賀の長谷雅晴氏が「疋田鮎ずし研究会」の活動の中で、25年ほど前にルーツを辿り、写真を添えてレシピを残されたとのこと。
 
早速私もそのファイルを見せていただこうと思っていますが、「記録を残してくれたのはありがたいこと」と糀谷会長も仰っていたとおり、製法が受け継がれているということは、再現できる可能性があるということ。
 
講座の後には、皆さん口々に「食べてみたい」と仰っておられましたが、私もその一人。
 
再発見された「疋田鮎鮨」を再現することはまさに、「食文化」を掘り起こすことであり、「食べてみたい」と口にされた皆さんとともに、ぜひ一度再現にトライできればと思います(気比史学会のイベントとして取り組んでも面白いかも)。
 
こうして、敦賀にあった食文化を聞けたことは自身の「知」となったことはもちろん、会場の皆さんと地域史を「楽しく学べた」ことは、気比史学会の活動理念とも合致するものであり、大変有意義な講座となりました。
 
冒頭の「昆布」も将軍家に献上されたもののひとつ。
 
小浜の斉藤商人が、敦賀で見立てて購入していたようですが、江戸時代より敦賀の昆布加工は一目置かれていたとあります。
 
敦賀真鯛やふぐ、東浦みかんの認知度向上に取り組む敦賀市ですが、それぞれにある「食文化」をどう活かし、残していくのか。
 
そのヒントは、単なる美味しさのPRではなく、今回学んだよう「歴史やエピソード」とつなぐことにあると、私は思います。
 
このことは思うだけでなく、機を捉え、また議会の場でも提案していく所存です。
 
(参考)
「疋田鮎鮨」に関しては、敦賀女子短期大学(当時)の多仁研究室が1996年度に調査した記録がありましたので、以下リンクしておきます。こちらも興味深いことが満載でしたので、関心のある方はぜひお読み取りください。 
→調査報告 福井県敦賀市疋田地区の疋田ずしについて