「2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(中間報告)」について議論がされる

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大きな関心事のひとつである、次期「エネルギー基本計画」策定に向けた議論。
 
今夏に閣議決定するスケジュール感で進んでいることからすれば、いよいよ議論も佳境に入ってきている訳であり、先週5月13日(木)には、その礎となる経済産業省総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(第43回会合)が、梶山経済産業大臣を始め、杉本福井県知事ら有識者が出席のもと開催されました。
 
この日の議題は、「今後のエネルギー政策に向けた検討」。
 
梶山経産大臣の言葉を借りれば、「2050年カーボンニュートラルを目指す中においても、エネルギー政策の基本である3E+Sのバランスを取り続けていくことが不可欠である。2050年に向けては技術の進展や社会情勢の変化といった様々な不確実性が存在する。シナリオ分析を通じて、カーボンニュートラルの実現に向けた課題や制約を明らかにし、そうした課題、制約を仮に乗り越えると仮定した場合、どのようなエネルギー需給の絵姿になるのか、そしてエネルギー政策の在り方や目指すべき対応の方向性についてどのような示唆が得られるのか、カーボンニュートラルと安価で安定的なエネルギー供給の両立という観点も踏まえて議論を深めていただきたい。」とのことであり、全ての可能性を排除することなく、道を探るということを前提としたものとなっています。
 
そうした位置付けのもと、本年1月に分科会事務局から紹介した「2050年の複数のシナリオ分析」に対しては、地球環境産業技術研究機構(以下、RITE)研究グループリーダーである秋元委員より、「2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析(中間報告)」について説明がされた後、その結果を踏まえて2050年に向けたエネルギー政策の在り方について、各委員より意見が述べられました。
 
ちなみに、現在提示されている「複数シナリオ」は、以下の表のようになっています。
 

 
【このシナリオの背景には、比率設定するための課題や様々なインプット条件がありますが、ここでは割愛します。】
 
そのうえで、RITEが示した分析結果(得られた示唆)のポイントは次の通り。
 
【今回のシナリオ分析から、得られた示唆】
◉非電力部門については、水素還元製鉄やDACCSなどの炭素除去技術やカーボンリサイクル技術は必要不可欠な技術であり、こうした技術を実装できない限りは、カーボンニュートラル社会は達成することは極めて困難。
 
◉非電力部門における技術的な困難さを踏まえれば、2050年カーボンニュートラルに向けては確立した脱炭素技術のある電力部門の脱炭素化は大前提となる。その上で、電源ごとに様々な課題・制約がある中で、参考値を実現するためにこれらの課題・制約を乗り越える前提条件を設定し参考値のケースを設定。課題・制約の克服には相当の困難が伴う上に、電力コストも現状の2倍以上に上昇する見込みであり、これらの課題を克服していく必要がある。
 
◉また、導入するにつれて発電コストやシステム統合コストが上昇するような再エネ電源について、モデル分析上の想定として外生的に、更に導入量を増加させることは可能であるが、実際には、自然条件や社会制約の結果、極端にそのような電源への依存度を高めることは困難であり、また、仮に、再エネ100%とした場合には、大幅にコストが上昇する(ケース1)ことが明らかとなり、再エネ100%のシナリオは現実的とは言えないのではないか。
 
◉技術イノベーションなどが進展する4つのケース(ケース2、3、4、5)を比較すると、それぞれの脱炭素電源毎に、技術イノベーション、コスト低減、国民理解の促進、導入制約の緩和などにより課題が克服され、更に導入が拡大すれば、2050年カーボンニュートラルに向けた筋道が複数描け、カーボンニュートラルの実現可能性が高まることが明らかになったが、こうした課題の克服には不確実性が大きい。
 
まさに、客観的データから見た的確な示唆と言えるのかと思います。
 
ちなみに、電力コストのことは切っても切り離せない問題ですが、導き出されたシナリオ毎のコストは以下。
①再エネ極大     :53.4円/kWh
②再エネイノベーション:22.4円/kWh
③原子力活用     :24.1円/kWh
④水素イノベーション :23.5円/kWh
⑤CCUS活用      :22.7円/kWh
⑥需要変容      :24.6円/kWh
 
こうした分析結果をもとに、再エネ拡大への懸念や注目の集まる原子力の取り扱いについては、「活用すべき」との意見が多くの委員から挙げられましたが、代表して、先陣を切って意見された杉本福井県知事の意見を掲載させていただきます。
 
「原子力について。資料によると再エネや水素、アンモニアなどの大量導入には技術面を含めて様々な課題があるということであった。そういう意味では、すでに確立している脱炭素技術である原子力の活用を拡大できれば、将来のカーボンニュートラルの実現性は格段に高まると思っている。一方で、原子力については、安全性に対する国民の信頼回復という課題があって、この課題の解決のためには、原子力の安全度を徹底的に高める研究開発を強力に進めていくことが重要だと考えている。発電所の安全性の向上は、立地地域の安心、安全、そして住民の理解と直結している。これまでも、安全性を高める観点から既設炉の活用だけでなく、新増設・リプレースの方針も示すべきという意見が各委員から出されているところである。この点についても具体的な方向性を示すべきだと考えている。
 
私も、原子力発電に携わっているからというひいき目抜きにして、この考えは至極当然のことであり、ごもっともと考えるところです。
 
また、先にありました電力コストとの関係で言えば、ただでさえ東日本大震災以降の電気料金上昇(原子力比率の低下、火力燃料費の増加が要因)により、特に電力大量消費産業(鋼炉や鉄鋼メーカーなど)においては大打撃を受けた訳ですが、この先を見ても料金上昇の方向でしかないとすれば、日本の企業は皆海外に出て行ってしまう(既にトヨタ社長が示唆)との意見も挙がっています。
 
さらには、このことを抜きにしては語れない「費用の国民負担」の問題。
 
再エネ比率上昇のための施策である太陽光発電の固定価格買取制度に関しては、電気料金と併せ、皆さんにお支払いいただいている「賦課金」は、何と年間2.4兆円にもなっています。
 
※お気づきになられていない方が多いのですが、皆さんも一度、月々の電気料金明細書をご覧になってみてください。
 
これらいずれも、言わば「国力の低下」に大きくつながるものと受け止めるところであり、綺麗ごとや理想を追うばかりで、こうした現実と向き合うことなく国策が決定されることはあってはなりません。
 
この日の基本政策分科会は、乗り越えるべき課題を明らかにし、この課題に対してどのような政策、ビジョンを作り、イノベーションのどこに優先を置くかを洗い出すことを目的としている(事務局談)とのことでありましたが、複数シナリオに対する意見まで出尽くし、いよいよ基本計画骨子案の議論も佳境に入ってきます。
 
以前の小泉環境相の「おぼろげに浮かんだ」お花畑に花が咲いたような数字に振り回されるのではなく、技術革新などの挑戦はあるにせよ、可能な限り不確実性を排除した「現実論」のエネルギー政策となるよう、切に期待するところです。
 
 →→→(参考)5月13日開催の基本政策分科会(第43回会合)の資源エネ庁ページはコチラから