検察庁法改正は民主主義や法治国家を揺るがすものなのか?

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twetterでの「#検察庁法改正に抗議します」の盛り上がりに合わせ、次第に野党(一部を除く)のボルテージも上がっている「国家公務員法の一部改正する法律案」のうちの一つ「検察庁法改正」。
 
本件に関しては、安倍政権サイドの説明に対し、野党の皆さんが「民主主義の根幹に関わる問題」、「法治国家としてあるまじき法律改正」だと反発を強めてきていたことから、関連する国会審議については録画中継視聴をするなど注視してきたところです。
 
同法案は、今週の国会がひとつの山場を迎え、立憲民主党の安住国対委員長は「これまでにないことをやる」と阻止に向け息巻いています。
 
そこで、世間の注目を集めるこの法案に対し、本当に野党の言うような悪意に満ちた「この検察省庁法改正が黒川東京高検検事長を検事総長にしたいがための法案」であり、そのによって「民主主義や法治国家を揺るがす」ものなのか否か、自分なりの考えを持っておくべきかと、そもそもの部分や時系列など、これまで知り得てきたことをもって思考整理をしてみました。
 
◉まず、法案について。
実際に国会に提出されている法案を見てみると、写真のように20もの法案が並ぶ、いわゆる「束ね法案」となっており、原文を読み解くのは超難解な訳ですが、別にある新旧比較表を用い、改正条文の内容を確認。。。
 

(右から4つ目の◯が検察庁法)
 
◉次に検察庁の組織、人事についてですが、
・検察は戦前、大審院の一つの部局であり、行政機関ではなく司法機関に属していた。
・戦後は、三権分立の観点から、法務大臣の指揮下のもと配置したという歴史的事実がある(検察を暴走させないとの意を含む)
・検察官が政治的に独立していることを保障するため、検察庁法第14条において、「法務大臣は、第4条及び第6条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。ただし、個々の事件の取調又は処分については、 検事総長のみを指揮することができる」と定めており、指揮権発動、検察官のトップである法務大臣だけが指揮権(命令権)を持っているが、これまでに一度しか発動されたことがない(民主主義のコントロール下に置くとの意)。
・さらに、三権分立のオールマイティ的存在であり、罰則の重軽など、ある種立法まで出来てしまうことに対し、検察審査会制度を強化(機能しているかは?)
・人事に関しては、既に強大な権力を有する検察が民主主義に全く監視されない範囲で行われることのないよう(誰にも忖度せずに検察官だけの正義で人事していくことを防ぐ)ため、検察庁法第15条において「検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。」としている(一般の公務員人事は人事院が承認)。
 
◉「黒川東京高検検事長の定年延長を是とするために、後出しで法改正をしているのでは」との疑問に関しては、この法案提出に至るまでの時系列を読み解くことで少し分かるのかなと。
《検察庁法改正に至るまでの経過》
・そもそもの切掛けは、平成30年8月に人事院が内閣と国会に意見の申し出を行った「定年を段階的に65歳まで引き上げるための国家公務員法等の改正」(年金受給年齢や人生100年の時代を踏まえ、民間は既に65歳までの段階的引き上げを実施済み)により、公務員においても「60歳から65歳へ」の議論をしていただけないかを申し出した。
・以降、国家公務員全体の定年を引き上げることが検討された。
・国家公務員の中で「検察官の定年延長だけが検察庁法で規定」されていたため、同法の改正も必要となることから、内閣府は法務省に対して、省内で意見を纏めるよう求めた。即ち、検察庁法の改正はありきではなかったことを意味する。
・2019年11月、国家公務員法の改正を2020年の通常国会に提出する方針を内閣府が纏めた。
・2020年1月16日、検察官も国家公務員法に規定される定年の特例延長制度の適用は排除されない(法務省の内部文書として策定)→電子記録あり①
・2020年1月17日、内部決定事項について法務省事務次官が森大臣に口頭での決裁をもらう。
・内閣法制局との協議を開始。検察官の65歳定年延長に対し、法律の齟齬がないかをしたうえで、1月21日に内閣法制局は法務省の判断を了解する方針を決定。
・法務省と内閣法制局とのやり取りは応接録に記載されている②
・1月22日〜24日の間で人事院と法務省の間で法解釈を巡る協議を実施。
・1月24日、人事院は、国会公務員法に基づき検察官の定年延長を了承する旨、文書を作成③。
・1月29日、これを受けて法務検察庁の事務方から黒川東京高検検事長の定年延長を求める提案がされ、森大臣は了承(慣例により、人事に手を突っ込むことはせず)。
・1月31日、森大臣からの閣議請議を受け、閣議決定がされる。
 
ちなみに、上記の①〜③の文書は国会にも提出され、閲覧に供しているとのこと(つまり与野党議員ともに見ている)。
 
◉「民主主義や法治国家を揺るがす問題」との指摘に対しては、やはり憲法との関係性が重要かなと。
2019年11月の原案でいくと憲法の以下の条文に照らし、違反になる可能性がある(検察官の任命権が担保されなくなる)ことも踏まえ検討されている。
・(内閣の助言と承認及び責任)憲法第3条「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」
・(天皇の国事行為)憲法第7条「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。」その対象として第5項には「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証する」
→→→この「認証を受ける人に基づく認証官(というらしい)には、検事総長、次長検事、検事長(全国で6人)が含まれる。
→→→つまり、憲法上の規定を遵守する意味において検察庁法改正が必要であった(人事院の承認で済む一般公務員とは違う)ことは、法治国家であるからこその流れと認識。
 
◉1月31日に「黒川氏の半年間定年延長を閣議決定」した点について、内閣の恣意的な人事、思惑が関与するのではないかとの指摘。
・森法務大臣の国会答弁では、個別の案件までの説明は差し控えているが、東京地検特捜部においては、カルロス・ゴーンや秋元司衆議院議員のIR疑惑などに関する捜査の真最中であり、以降の検察としての組織的合意や意思決定を行うためには、検察首脳会議のメンバーである黒川検事長が退官されては、捜査に影響を及ぼすことから、検察庁事務方から半年間の定年延長を求めたとされている。
 
◉まとめ
頭がこんがらがってきた感が否めませんが、私の受け止めとしては、
・国家公務員全体の中での議論がキックであり、その後も行政に属する検察の扱いについて順を追って手続きを踏んできている→→→黒川検事長ありきとの法改正とは考え難い。
・検察庁法改正法案の施行日は2022年4月1日であり、黒川検事長の人事の行方とは法的な関係がない。
・手続きに関する役所側の検討文書は国会に提出され、国会議員の閲覧に供している(与野党議員ともに見ているはず)ことから、恣意的に政権が後付けで行ったとは言えないのではないか。
・法治国家であるが故、憲法との関係性も踏まえた検討が行われている。
・民主主義と検察の関係に関しては、「権力の暴走」という観点では検察権も例外ではなく、国民までも刑事訴追することができる強大な権利が暴走することのなきよう、民主的に選ばれた人(内閣)による監視・牽制(いわゆるシビリアン・コントロール)関係を構築することは、まさに歴史から学んできた解決策であり、今回の改正も、このことを遵守(内閣の任命権下に検察を置く)していると考えることから、「民主主義の崩壊」には値しない。
 
というのが、私の受け止めであります。
 
とは言え、安倍政権や森大臣の説明不足の点に関しては、国会論戦でもポイントとなっている以下の項目については、私ももう少し丁寧且つ具体的な見解を提示する必要があるのではと考えるところです。
なお、論点を明確にしたうえで、法解釈を明らかにしていくことこそ立法府である国会の役割であり、そういった意味では政権からの根回しや忖度がどうのは抜きとして、チェック機能としては働いていると言えるのかも知れません。
 
・1点目は、そもそも国家公務員の勤務延長制度が制定された当時、国会において同制度は検察官には適用されないとの解釈が答弁されていたにもかかわらず、これを解釈変更して適用した点(1月31日の黒川検事長の件)。
・2点目は、役職定年の例外措置と勤務延長が認められる場合の要件や運用基準等が未だに曖昧である点。政府は「恣意的な人事介入が行われる懸念はない」と述べていますが、この基準が曖昧なままでは結局政府への白紙委任という形になりかねないことから、これらの規定が適用されるケースとして、どのような場合を想定しているのか。むしろ、その解釈の基準となる要件や指針を明らかにすることで、「恣意的な人事介入が行われる懸念」を払拭する必要はあるのではないか。
→→→先週の衆議院内閣委員会の国民民主党 後藤議員の質問に対し、森大臣が「人事院の制度を確認したうえで検討する」とし、明確に基準を答えられなかった点
 
以上、個人的に調べたことを長々と述べましたことご容赦願います。
 
これは、あくまでも私の思考整理の意味で記載したものであり、皆さんに考えを押し付ける訳でないことをお断りしたうえで、事実関係を踏まえた問題点とは何かという自分なりの判断根拠を持っておけば、各種報道のコメントやtwetterのリツイート、デモやデマに流されることなく、客観的に物事を見られるのかなと思いましたので、ご紹介させていただきました。
 
細かい部分や至らぬ点はあろうかと思いますが、私の能力ではここまでの理解とご理解いただき、今週の国会論戦を見るうえでの参考になればと存じます。
 
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。