世界に誇る日本の原子力サプライチェーン。国内で活かさないでどうする。

ブログ 原子力

常日頃から「アンテナを高く、広く」、つまりは最新の情報を感度良く収集することを意識はしているものの、中々難しいもの。
 
そんな私の情報収集力の低さをカバーしていただけるのは、各方面から情報を寄せてくれる仲間や支援者。
 
そうして寄せていただいた情報をつぶさに拝見するに、自分自身の知識向上のみならず、気付きや課題解決に向けた道筋などにもつながることも多々あり、本当にありがたく、そうして対応いただいている皆さんに、この場をお借りして心から感謝申し上げる次第です。
 
さて、本日は、そうして寄せていただいた情報から「日本の原子力技術」に関して得たことをご紹介したいと思います。
 
内容は、7月1日に開催された「第3回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ」のオンライン会合について。
 
その名の通り、「革新炉開発について」を議題とする会議で、この日は事務局より「エネルギーを巡る社会動向を踏まえた革新炉開発の課題」について説明がされた後、アメリカ合衆国原子力規制委員会(NRC)より「革新炉の今後の見通し」、原子力エネルギー協会(NEI)より「革新的な原子力技術」についてヒヤリングがされるなど、幅広い知見を収集したうえで、日本が進むべき方向性や課題整理がされました。
 
会議映像や資料から、私がポイントかなと感じた部分を以下に紹介します。
 
<小野 委員 (一社)日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行>
◉原子力発電設備の停止が長期化し、新設プロジェクトも進捗が無い中で、日本の原子力産業はサプライチェーンの多くの部分を今だ国内に保持していること、またその技術がフランスにも匹敵する高い技術力を持っていることに少なからず安堵した。しかし、日本が原子力の前に立ちすくむ状況が今後も続いた場合、技術も人材も失われてしまうことは必定である
◉資料に米国・英国の例があるが、新設の凍結がさらに長期となれば、原子炉の主要機器の製造能力の多くが失われてしまう。英米と比べれば新設停止の期間が短い今のうちに、早急な対応が必要。
◉昨日IEAが気候変動並びにエネルギー安全保障の観点から、2050年までに世界の原子力発電能力を2倍にする必要があるとの報告書を公表した。更に本年2月以降のウクライナ情勢は、これからのエネルギー安全保障に大きな懸念を投げかけていることになり、原子力の意義が再認識されている。そのような中、最近の円安傾向は日本が今だに保有している原子力関連技術の海外展開の可能性を拡大させている。日本の革新的技術を今後拡大が予想されている海外への積極的に輸出することは、世界の気候変動対策やエネルギー安全保障に貢献するのみならず、国内のサプライチェーンの維持強化に極めて有効である。
◉事務局資料にもあったが、原子力産業の海外展開に対する戦略的な政府支援の拡充を期待する。しかし、最も重要なのは、日本の技術を日本で使うことだと思う。日本の原子力技術がどんなに世界の課題に貢献したとしても、肝心かなめの日本のエネルギー安全保障が脅かされるままであれば元も子もない。民間企業が原子力分野の技術開発に向けたモチベーションを維持し、人材や予算を確保し続ける上でも、政府が新増設・RPも含めた明確な方向性、メッセージを打ち出すことが不可欠である
 

【現に長期に亘り新規建設がない米英はサプライチェーンの技術力を失っている。その穴を埋めているのが、原子炉容器や大型タービンなどの日本の技術であることも分かる。】

【一方、原子力を維持した仏はサプライチェーンも維持(ここでも原子炉圧力容器は日本製ですが)】
 
<斉藤 委員(東京大学大学院工学系研究科原子力専攻准教授)>
◉研究体制という点で、特に研究開発の体力が今落ちてきていると、私も大学にいるので思う。施設が老朽化しているし、震災以降開発が規制対応を含めて難しくなってきているという部分があった。したがって、施設をどう活用していくのか、おそらく今ある施設をそのままの形でということにはならないと思うので、予算を上手く集約的に統括して、施設の共通化と解放を上手くやっていく必要があると思うし、その中でやはり研究開発を支える人材を質・量ともにある程度揃えていくという、そういったロードマップが必要ではないかと感じている。
 →もんじゅ敷地内に設置される試験研究炉はまさに、この役割を果たすものと期待する。
 
<遠藤 委員(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)>
◉本日のワーキンググループ、NRC、NEIの海外の事例を聞いて、やはり規制が産業界との対話をしながらイノベーションを行い、規制自体もイノベーションしていくということが非常にわかりやすい回だったと思う。
 →多くは言いませんが、「独立性」が高いが故の日本の原子力規制委員会に向けた言葉と理解。
 
<山口 委員(公益財団法人原子力安全研究協会理事)>
やはり一番最初のポイントは、カーボンニュートラルとエネルギー経済安全保障の両立ということ。そこに対して原子力あるいは革新炉の役割、貢献というのは改めて今日米国からの話を伺っても認識されるところ。実際に過去ここ10年間のカーボンフリーの発電というのは何で行われてきたかというと、世界中の発電の50%は原子力、あと40%が水力、そういう状況。それを踏まえても確立された信頼性の高いエネルギー源として原子力を持続的に活用すると、その一つの方向性としてどういう革新炉を描いていくかという点、大変重要であるという認識を得られた。
 
<大野 委員(一社)日本原子力産業協会 情報・コミュニケーション部課長>
◉今後の革新炉の展開を見据えつつ、サプライチェーンの維持強化を図るためにも、まずは早期再稼働が必須で、さらに新増設・リプレースを早期に検討を開始する必要があると考える。その際、自由化された電力市場においても、新増設・リプレース事業に予感性をもって取り組むことが出来るよう、投資環境の整備も合わせて検討する必要があると考える。
 
他にも専門性の高い技術革新やポートフォリオの関係等で参考になった点が多々ありましたが、革新炉を含む原子力発電の位置付けに対する基本的な考え方については、先に委員が述べられた言葉は「ごもっとも」と大きく頷いた次第です。
 
日本初の商業炉である日本原電「敦賀発電所1号機」(BWR:1972年運開)の国産化率は「55%」であったのに対し、九州電力の玄海2号機(PWR:1981年運開)時点では「99%」、BWRでも東京電力福島第二原子力発電所2号機(1982年)では「98%」にまで国産化率は高まっています。
 

【一番下をご覧いただくと国産化率の推移が分かります】
 
これは、裾野の広い原子力の分野で、日本のサプライチェーン企業の技術力の総力を結集してきた賜物であると、実際に現場で勤め、このことを実感する私自身も誇りに思うところ。
 

【日本が誇る原子力サプライチェーン企業】
 
その誇るべき技術力と人材を米英のように枯渇させてしまうのか、維持するのかの瀬戸際にあるのが「今」です。
 
失ってから嘆いても取り返せないこの状況を打開するためには、国が早期に「新増設・リプレース」を政策として示すこと以外にありません。
 
ひいては、この参議院選挙が終わった後、真にエネルギー・原子力政策の見直しが行われることを切に求める次第です。
 
(投稿後追記)
ちなみに、上記趣旨も踏まえ「リプレースが必要」と公約に掲げている政党は「国民民主党のみ」です。