「野心的」≒「非現実的」→矛盾だらけの「エネルギー基本計画(素案)」

エネルギー ブログ

同じ嶺南の小浜市では36.9度と全国で2番目の気温を記録した昨日でしたが、私のほうは毎週水曜日の朝は辻立ちデーということで、7時過ぎから8時過ぎまでの約1時間、海辺の心地良い風が吹く時間帯に元気に挨拶させていただきました。
 

【抜けるような青空のもとでの辻立ち風景】
 
今日から4連休前ということもあってか、出勤される皆さんの表情も普段より明るく、手を振り返していただける方もいつもより多かったような気がします。
 
また、暑いは暑いでも、こちらは「熱い」戦いが繰り広げられた夏の甲子園を懸けた福井県大会。
 
昨日は、敦賀気比vs金津の決勝戦が行われ、大本命の敦賀気比が投打に圧倒、7-0のスコアで勝利し、見事甲子園の切符を掴み取りました。
 
選抜優勝経験のある敦賀気比にとっての悲願は、やはり「夏の全国制覇」。
 
もちろん強豪ひしめく甲子園の中で、福井県勢を代表して1戦1戦戦い抜き、球都敦賀の名が全国に轟くことを、私も応援したいと思います。
 
さて、明るい話題を二つ続けましたが、こちらは何でこうなるのかと、全く腑に落ちない話題。
 
これまでも注視をしてきました、国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」について、経済産業省は21日、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(第46回)を開催し、「素案」を示しました。
 
素案は、資料1の概要版と資料2の本編から成りますが、全体構成は以下の通りです。
 

【エネルギー基本計画(素案)の構成:分科会(第46回)資料1より抜粋】
 
昨日の分科会自体の論議をライブで視聴することは出来ませんでしたが、この資料1に加え、119ページに及ぶ資料2の本編をざっと目を通してみましたところ、結果、2030年におけるエネルギー需給の見通し(いわゆる電源構成)を示す考え方、数値は次の通りでした。
 
正確を期すため、資料2「エネルギー基本計画(素案)」のP102〜P103に掛けての記載を抜粋します。
 
その上で、電力供給部門については、S+3Eの原則を大前提に、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの最大限導入に向けた最優先の原則での取組、安定供給を大前提にできる限りの化石電源比率の引き下げ・火力発電の脱炭素化、原発依存度の可能な限りの低減といった基本的な方針の下で取組を進める。
 
まず、再生可能エネルギーについては、足下の導入状況や認定状況を踏まえつつ、各省の施策強化による最大限の新規案件形成を見込むことにより、約3,120億kWhの実現を目指す。その上で、2030年度の温室効果ガス46%削減に向けては、もう一段の施策強化等に取り組むこととし、その施策強化等の効果が実現した場合の野心的なものとして、合計約3,300~約3,500億kWh程度の導入、電源構成では約36~38%程度を見込む。なお、この水準は、キャップではなく、今後、現時点で想定できないような取組が進み、早期にこれらの水準に到達し、再生可能エネルギーの導入量が増える場合には、更なる高みを目指す。その場合には、CO2排出量やコストなどを踏まえて他の電源が調整されることとなる。
再生可能エネルギーの導入拡大に当たっては、適地の確保や地域との共生、系統制約の克服、コスト低減などの課題に着実に対応するため、関係省庁が一体となって取り組む。
 
原子力発電については、CO2の排出削減に貢献する電源として、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下、原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進め、国も全面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう取り組み、電源構成ではこれまでのエネルギーミックスで示した約20~22%程度を見込む
 
火力発電については、再生可能エネルギーの更なる最大限の導入に取り組む中で、当面は引き続き主要な供給力及び再生可能エネルギーの変動性を補う調整力として活用しつつ、非化石電源の導入状況を踏まえながら、安定供給確保を大前提に、非効率石炭のフェードアウトといった取組を進め、火力発電の比率をできる限り引き下げる。その際、エネルギー安全保障の観点から、天然ガスや石炭を中心に適切な火力ポートフォリオを維持し、電源構成ではLNG火力は約20%程度、石炭火力は約19%程度、石油火力等は最後の砦として必要最小限の約2%程度を見込む
 
更に、今後の重要なエネルギー源として期待される水素・アンモニアの社会実装を加速させるため、電源構成において、新たに水素・アンモニアによる発電を約1%程度見込む
 
これらの需給の見通しが実現した場合、エネルギー起源CO2は、2013年度比で約45%程度削減の水準、エネルギーの安定供給を測る指標としてのエネルギー自給率は、2015年に策定した長期エネルギー需給見通しにおいて想定した概ね25%程度を上回る約30%程度の水準を見込む。
 
以上が、示された結論とも言える部分であります。
 

【2030年の電力需給・電源構成:分科会(第46回)資料1より抜粋】
 
これに対しては、様々な有識者や専門家がコメントを述べられており、私もいくつか拝見するに、受け止め的に合致したのは、基本政策分科会の委員でもある橘川武郎国際大副学長の話しでしたので、こちらも併せて掲載させていただきます。
 
(以下、橘川副学長のご意見)
全体的に無理のある数字が並んでおり、示された2030年度のエネルギーミックス(電源構成)達成は非常に厳しいだろう。特に原子力の目標値が据え置かれた中で、原子力発電のリプレース(建て替え)を盛り込むことを先延ばしにしたのは影響が大きい。長期的に原子力を推進するとの政府方針が明確にならず、再稼働に向けて地元に理解を求めづらくなる。
最終的に再生エネルギーと原子力を合わせた目標値は15%ほど未達になるだろう。結局は火力を使わざるを得なくなり、国費で(CO2)排出権を購入することにもなりかねない。
 
そのほか、液化天然ガス(LNG)火力の目標を大幅減の20%としたが、これでは産出国に「今後は買わなくなる」と誤解される。中国や韓国など他の輸入国に比べ、悪い購入条件を突きつけられる恐れが出てくる。石炭なども同様でミスリーディングな数値が並んでおり、調達にも影響が出てくるかもしれない。
 
そもそも「野心的」との言葉が多く出てくるが、それは「非現実的」という意味に近く、達成できなくても誰も責任を取らないということ。2050年に向けて取り組みを進めるにあたり、2030年度のミックスなんて作らない方がよかったのではないか。
 
重要と思う部分を太字で強調している訳ですが、全文太字にしたいくらいの的確な見方かと思うところです。
 
とりわけ原子力発電に関して、この素案では「必要な規模を持続的に活用していく」(資料2:P23)とあったと思えば、次のページには、「可能な限り原発依存度を低減する」(資料2:P24)とあったり、2ページの中でも思わず「どっちやねん!」の言葉が飛び出るほど矛盾を感じることに加え、新規制基準下で国内初となる原子力発電所の40年超え運転判断を行う際に、梶山経産大臣が杉本福井県知事に仰った約束とも言える、「確立した脱炭素電源である原子力発電は今後も最大限活用していく」はどこに行ってしまったのか、これこそ立地地域との信頼関係に影響する大きなミスリードではないかと強く思います。
 
また、信頼関係で言えば、素案の中でも原子力政策を進めるうえでの重要事項として記載されているものの、上記理由により、それこそ既に矛盾、別の項目では、国内の原子力環境が先細り感が否めないにも関わらず、国際的な原子力技術には貢献していくという矛盾、しかも中国や韓国の名前まで挙げており、この点は全く理解できるものではありません。
 
そして何より、原子力立地自治体はもとより、基本政策分科会の中でも多くの委員から必要性が挙げられた「新増設・リプレース」の記載が見送られたことは、本計画が2050年を見据えた2030時点と位置付けるのであれば尚のこと、原子力発電所の今後の稼働予想を見れば、その必要性は誰が考えても明らかであるのに全く触れられていないことは、現実逃避としか言えず、これで「原子力の将来を明確にした」とは決して言えるものではありません。
 
これについては、敢えて分かっていながら生じさせている「矛盾」と言わせていただきます。
 
ざっと読んだだけでも思うところだらけな訳ですが、これまで真に現実的な計画策定に向け議論されてきた、先の橘川委員などの気持ちを踏まえれば、「何のための議論だったのか」と言いたいところかと推察するものであります。
 
本日の新聞報道などにどう表現されるかは分かりませんが、私自身は119ページの素案をさらに読み込み、決して傍観者や評論家になることなく、意見提起ができるよう準備していく所存です。