2022年11月5日
「“高経年化”した原子力発電プラントに関する安全規制の検討」について
運転年数が経過した原子力や火力などの発電所に対して用いられる「老朽化」の言葉。
「老朽◯○」」と呼ぶことで、どこか古くて危ないものと印象操作しているのではと受け止めるものであり、私は一度も使ったことがないところ。
ではどう呼ぶのかといえば、状態を正しく表す言葉としては「高経年化」であり、原子力の分野では以前からこう呼んできています。
現に原子力発電所では、運転開始から30年を迎える際、以降も10年ごとに実施している評価は「高経年化技術評価」であり、私も敦賀発電所1号機の評価に携わったことがある訳ですが、皆様におかれても、「原発」ではなく「原子力発電」と同様、「老朽」ではなく「高経年」と使用していただければ幸いです。
さて、私のこだわりを冒頭述べさせていただきましたが、これにつながるのが「原子力発電所の長期運転」に関すること。
これに関しては、8月末のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議において、運転期間の延長が「原子力政策の今後の進め方」の中で課題の一つに挙げられたことを踏まえ、現在、総合資源エネルギー調査会で検討が進められていることに加え、原子力規制委員会も今後、60年を超えて運転する可能性も見据え、規制側として制度設計の準備を進めるもの。
既に報道されているとおり、原子力規制委員会は11月2日の定例会合で、「高経年化した原子力発電プラントに関する安全規制の検討」に向け、現行の運転期間延長認可と高経年化技術評価の2者を統合する新たな制度案を示しました。
新たな制度案では、運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに、安全上重要な機器の劣化状況を把握し経年劣化に関する技術的評価を行うとともに、その評価結果に基づいて施設の劣化を管理する「長期施設管理計画」を策定することを事業者に対し義務付ける。
同計画の認可を受けずに運転した場合は設置許可取り消しもあり得るというもの。
なお、運転期間の上限については言及していません。
福島第一原子力発電所事故後に、科学的根拠なく決められた「40年ルール」(表の左欄)と前述の「高経年化技術評価」(中欄)、そして現在「検討中の案」(右欄)が比較できる表がありましたので以下に示します。
【11月2日 原子力規制委員会資料より抜粋】
簡単に申せば、運転期間の上限を設けず、30年を超えて以降、定期的に技術的評価をしながら使用するということであり、置き換えてみれば、人間の身体と同じことかと。
また、別の視点では、最大でも60年運転という「40年ルール」では、安全向上対策のための機器の取り替えや修繕など設備投資した分を費用回収できるのかというのがネックになる部分があったかと思いますが、上限を設けないことでより予見性が高まり、事業者の経営面からも見通しと計画性をもった対応ができるものと認識する次第です。
GX実行会議において、岸田総理が求める検討の期限は「年内」。
原子力規制委員会の山中伸介委員長も、2日の会合終了後の記者会見で、制度の大枠については年内に固める考えを述べたとのことですが、上記の案どおりで進むのか、今後も注視するところです。