「科学が風評に負けてはならない」〜福島第一の処理済水問題を煽っているのは誰か〜

ブログ 原子力


 
写真は、復興庁が作成した「(福島第一原子力発電所の)ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」の動画の一画面。
 
この動画は、ALPS処理水による風評影響を最大限抑制するには、ALPS処理水の安全性等について、科学的な根拠に基づく情報を分かりやすく発信することが重要であることや放射線というテーマは専門性が高く、分かりづらいことから、国民の皆さんに関心を持っていただき、科学的根拠に基づく正しい情報を知っていただくため、イラストを用いて分かりやすく解説したチラシ・動画を4月13日に公開したもの(復興庁HPより)。
 
しかしながら「トリチウムのキャラクター化(ゆるキャラ)はけしからん」などとSNSなどで批判の声が殺到したことを受け、復興庁はそれらを踏まえトリチウムのデザインを修正するとし、当該チラシ及び動画の公開を一旦休止する事態となっています。
 
私は当初、海洋放出に対する理解活動は必要とはいえ、政府判断の直後に、さも準備してましたかの如く進めるのかはどうかとも思ってましたが、複数の知人より、批判されたからといってすぐに引っ込めてしまうのでは、それこそ風評につながってしまうのではないか、そもそも何を言われても屈しないとの覚悟を持って取り組むべきではないかとの意見を頂戴し、確かにごもっともと思い直した次第です。
 
福島第一原子力発電所のタンクに溜められているトリチウムを大気や海に放出する場合の安全性については、処理水取り扱いに関する小委員会報告書で、仮にタンクに貯蔵中の全量相当のトリチウムを毎年放出し続けた場合でも、公衆の被ばくは日本人の自然界からの年間被ばく(2.1ミリシーベルト)の千分の一以下にしかならないとの試算結果が示されています。
 
塩分は取り過ぎれば人体に有害ですが、少なければ全く問題ありません。
 
これと同様に放射線も全く同じで、有害かどうかはその摂取量によって決まります。
 
世界保健機構(WHO)が定める飲料水中のトリチウム濃度は1万ベクレル/リットルとしています。
 
この水を1年間毎日2リットル飲んだ場合の被ばく線量は、0.13ミリシーベルト。
 
ちなみに、世界で最も高い基準はオーストラリアで、飲料水中のトリチウム濃度を7万6,103ベクレル/リットルとしています。
 
この水を同じように1年間毎日2リットル飲んだ場合の被ばく量は1ミリシーベルト。
 
日本はというと飲料水の基準はないものの、排水の基準は6万ベクレル/リットル。
 
1年間毎日2リットル飲んだとしても1ミリシーベルト以下であり、オーストラリアの飲料水基準にも満たないことが分かります。
 
そして、今回の福島第一原子力発電所の排水基準目標値は、1500ベクレル/リットル。
 
桁違いに低いことがお分かりいただけるかと思います。
 
また、以前もあったように、お隣の韓国からはこの海洋放出に対し、いわゆる「イチャモン」を付けられているところですが、韓国の月城(ウォルソン)原子力発電所では、軽水炉に比べてトリチウム放出量が一桁大きい4基のCANDU炉(重水炉)を運転しており、同発電所からのトリチウム年間放出は、4基体制に入った1999年10月以降だけで見ても、これまでに累積で6000テラベクレルを超えるトリチウムを放出しています。
 
これに対し、福島第一原子力発電所に貯留されているトリチウム総量は約1000テラベクレルであり、月城原子力発電所の累積放出量はその約6倍にあたることからすれば、「自分のことを棚に上げた」批判は、全くもって論外であり、日本政府は毅然と反論すべきと考えます。
 
また、本件に関しては悲しいかな、本来、無用の風評被害につながらぬよう報道すべきマスコミの一部が逆に、風評を煽っている感が大いにあることから、特にニュースや新聞記事のみを鵜呑みにし、真実を見誤ってはならないと肝に銘じるところであります。
 
このように、事実を科学的に証明、反証しつつ、その安全性が担保されていることを国民の皆さんに丁寧に説明するとともに、国際基準などにも照らし、福島の海からそれ以上検出されない濃度まで薄めて流せば何ら問題は無いと考えるところであり、この点しっかりと国を挙げて対応していくことこそ「風評被害」の防止につながるものと思います。
 
冒頭の復興庁動画に話しを戻しますと、言われたから中止するのでは不安が増すだけ。
 
自然界にも人間の体にも存在するトリチウム、「汚染水」ではなく「処理済水」であることを分かりやすく示した動画であったかと私は思うため、復興庁に置かれては可及的速やかに再掲いただき(トリチウムをどう表現するかはお任せしますので)、国民の皆さんへの更なるご理解と風評被害の防止に信念をもって取り組んでいただくことを求めるところであります。
 
つきましては、「科学が風評に負けてはならない」との思いのもと、一部風評を煽るマスコミ、新聞報道に惑わされないよう、このブログをお読み取りいただいている方には是非ともお願いを申し上げ、本日のブログを閉じさせていただきます。