2022年5月20日
「原子力の最大限活用」と世界秩序
5月15日のブログでは、「『クリーンエネルギー戦略(中間整理)』のどこが『原子力を最大限活用』なのか」と少々生意気なタイトルで、政府は覚悟を決めて新増設・リプレースなどに踏み込むべきと意見したところですが、17日に開催された全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協、会長=渕上隆信・福井県敦賀市長)の2022年度定例総会の場でも同様の意見がされたとのこと。
渕上会長は冒頭の挨拶にて、昨年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画について「新増設・リプレースを含めた将来を見据えた方向性が明確にされず大変遺憾」と述べたうえで、ロシアのウクライナ侵略による国際情勢緊迫化などを挙げ「エネ基策定時から国際情勢が変化している中で、原子力を含めたエネルギー政策がどうあるべきか、あらためて議論する必要がある」との認識を示したと報じられていました。
また、18日には敦賀市議会最大会派である市政会が岸田首相と官邸で面会し、エネルギーの安定供給と温室効果ガスの排出削減を両立させるためには原子力発電所を最大限活用する必要があるとし、新増設やリプレースを含めた原子力政策の方針を明確にするよう求めたと、昨日の福井新聞に大きく報じられていました。
会派で中央官庁への要望に行くことは事前に伺っていたものの、新聞を開いて、まさか首相に直接であったとは驚いた訳ですが、要望書では冒頭に述べた「クリーンエネルギー戦略」における原子力政策の方針明確化を求めるものであり、現下のエネルギー危機を踏まえ、原子力発電所所在地議会を代表するかの行動に敬意を表する次第です。
クリーンエネルギー戦略に対しては、他にも日本商工会議所なども同様の趣旨の意見書を経済産業省に提出していますが、これだけ多くの声が挙がっていることを踏まえ、岸田首相におかれては「覚悟を決めて」原子力政策について一層踏み込んだ検討を指示いただきたいと強く思う次第です。
こうした中、4月28日に日本原子力産業協会(原産協会)が刊行した「世界の原子力発電開発の動向」(2022年版)には、このような記載がありました。
この「動向」は、2022年1月1日現在の世界の原子力発電に係るデータを集計したもので、広範な情報を網羅したものですが、それによると、世界で運転中の原子力発電所は431基・4億689.3万kWで、前年より3基・98.9万kW分減少(出力変更を含む)。
2021年中は、中国、ベラルーシ、パキスタン、アラブ首長国連邦、ロシアで7基・829.1万kWが新設されたほか、中国、インド、ロシア、トルコで10基・987.4万kW分が着工し、建設中のプラントは計62基・6,687.4万kWとなった。
なお、計70基・7,970.3万kWが計画中で、中国では2021年中、3基が新設、6基が着工しており、躍進が際立っていた。
とありました。
日本が原子力技術や人材の維持継承を課題とするまでになっている一方、中国、そしてロシアでは着々と原子力発電の開発が進められており、このまま行けば、この両国に世界が席巻され兼ねない可能性を意味するものと、私自身は脅威を覚えるところです。
奇しくもロシアの軍事行動により、エネルギー安全保障の重要性を実体験として認識する昨今。
簡単に言えば、資源を持っている国は強い、持っていない国は弱いということになりますが、我が国においては先の大戦の反省を踏まえ、エネルギー自給率の向上、準国産エネルギーである原子力発電の開発を進めてきたことはご承知の通り。
そのことを思えば、日本が西側諸国とともに、真に「原子力の最大限活用」に向かうことは、我が国の安全保障のみならず、中露にとって脅威になる、つまりは世界秩序を保つことにも貢献出来るものと考えるところであり、繰り返しになりますが、この後の「クリーンエネルギー戦略」には文字通り、首相の仰る「最大限活用」を具現化した政策が反映されることを期して止みません。
【西側諸国が原子力に回帰していることにより、2023年版の数字は変化するものと予想。それにしても、各国が脱炭素一色から現実的なエネルギー政策に転換するキッカケがプーチンの非人道的行為とは、本当に皮肉なことです。】