2021年10月8日
規制・ルール化することの効果と弊害
話題性が無い記事はあまり大きく取り上げられないのは、報道機関の常かと思いますが、代表例が新型コロナウイルス。
新型コロナに関しては、第5波拡大の際、「今日も全国では新規感染者◯千人、どこまで拡大するのでしょうか」と不安げな表情で括るキャスターの顔が日々流れていましたが、一気に減少した今はサラリと流れる程度。
しかも、あれほど人流抑制を主張していた有識者が「減少した理由が分からない」のでは、現実のデータから対策効果があったのか、なかったのか全くもって科学的に解明されていないことを露呈している訳であり、メディアはそこをもっと追及、掘り下げていくべきではないかと思うのですが、今や減少したことの理由など話題性がないのか。
結果して、菅前政権のコロナ感染対策は総辞職前に、数字上の効果を見せた訳ですが、これを肯定するような報道はしたくないからかとも勘繰ってしまいますが、いずれにしても、世論形成に大きな影響を及ぼす報道各機関には、厳に客観的で公平な取扱いをお願いしたいところです。
さて、本題は、この「データと対策効果」に関してですが、たまたまインターネット上で調べ物をしていると、埼玉県議会が令和3年2月定例会において「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を成立し、この10月1日から施行との記事がありました。
日本初のエスカレーター条例だそうで、既にお知り置きの方もいらっしゃるかもしれませんが、本条例第1条では「県、県民及び関係事業者の責務を明らかにするとともに、エスカレーターの利用者及び管理者の義務を定めることにより、エスカレーターの安全な利用を確保し、もって県民が安心して暮らす社会の実現に寄与することを目的とする」としています。
また、
◉利用者の義務(第5条)
立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない。
◉管理者の義務(第6条)
利用者に対し、立ち止まった状態でエスカレーターを利用すべきことを周知しなければならない。
※ 罰則規定はありません。
などを定めています。
【埼玉県が作成した啓蒙ポスター】
注視すべきは「第5条」、つまりは「エスカレーター上を歩くな」ということですが、調べてみると、日本エレベーター協会の報告では、2018~19年のエスカレーター事故は全国で1550件。
さらに、その内訳は、手摺を持っていなかったり、歩行中につまずいたりして転倒する「乗り方不良」が805件(51.9%)となっている訳ですが、この数字をどう考えるか。
エスカレーターで発生する事故のケースを想定してみると、例えば、「ながらスマホでの注意不足」や「手摺を持たない状態での急な停止」、「降り口で立ち止まられての衝突」、「ベビーカーなどの取り扱い不備」などが思いつく訳ですが、果たして歩行禁止でこうしたことがどれだけ防げるのか。
ちなみに、エスカレーター乗車時は、関西では左側、何故か関東は逆の右側を空けるのが慣習となっていて、理由は急いでいる人が先に歩いて昇り降りできるよう、言わば「追い越し車線」にしているということですが、現実問題として、歩行を禁ずることは、この「追い越し車線」の慣習を否定することになり、二列で輸送能力を上げた場合、急いでいる人の「イライラ感」で余計なトラブルや、それこそ事故が発生するのではないかと考えてしまいます(本来の機械の性能・保守を考えれば、偏りなく左右バランス良く乗車すべきとは思いますが)。
つまりは、歩くこと自体が問題なのではなく、乱暴に歩いたり、不注意であったりすることが危険なのであり、ましてや降り口での立ち止まりなどは、歩行禁止で二列になれば逃げ場がなくなり、さらに危険性が高まるのではないかとも考えてしまいますが、社会通念や慣習を取り払ってまで禁止する歩行禁止で果たしてどれだけ安全性が高まるのか。
残念ながら、条例化に至るまでの効果・数値の検証や発信された形跡までは調べきれませんでした。
また禁止行為の条例化による罰則規定まではなく、その効果のほどはまさに今後評価されるのであろうと考える訳ですが、いささか、何でも禁止ということに違和感を覚えた次第です。
ご検討され、意思をもって条例化されたこと自体を否定するものではありませんが、実態としてあるリスクに対し、何でもかんでも禁止・ルール化するのは簡単なことかもしれませんが、ルール化すること自体が目的になっては、世の中が不便になることに加え、本来の目的を見失い、結果、目的が達成できないだけではなく、逆に弊害としてのリスクを生み出しかねません。
コロナ感染対策と同様、実態としてあるデータを分析し、それを踏まえ講ずる対策の実効性を示し、住民の皆さんに理解されなければ、本当の意味でのリスク低減にはつながらないと考えますので、引き続きこうした事例も念頭に、規制化することの意味合いやルールメイキングの考え方について、自身も思考を巡らせていきたいと考えます。