2022年1月31日
今こそ現実主義に徹した「エネルギー安全保障」の再考を
「やまたけNEWS」も発行し、どこか穏やかな気持ちで迎えた1月最後の日曜日でしたが、朝はスマホに緊急速報。
すぐさま確認すると、北朝鮮が午前7時52分頃、日本海に向けて弾道ミサイル1発を発射したとのこと。
思わず「またか!」と憤ってしまった訳ですが、今年に入って7回目となるミサイル発射は、中距離弾道ミサイルを通常より高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射したと分析されており、通常軌道なら日本全域が射程に収まるとのこと。
結果、日本の排他的経済水域(EEZ)の外へ落下したとされるものの、「誠に遺憾である」を繰り返すだけで良いのかと忸怩たる思いが募った次第です。
こうした行為に込められる考えは金正恩のみぞ知るということですが、私は勝手に、ウクライナ情勢の緊迫に伴うロシア、台湾の統一圧力を仕掛ける中国への援護射撃、つまりは西側諸国への強烈なメッセージではないかと想像するところ。
現に米国が、ロシアと中国の二正面の対処に追われていく過程で、北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻度を増しており、対北朝鮮の優先度が低下しているところを狙ったかのようなタイミングがそれを証明しているかのように映る次第です。
さて、今ほど述べた対北朝鮮、対中国への懸念は今さら申し上げるまでもない関心事でありますが、極めて緊張感が高まっているのがウクライナ情勢であり、エネルギーの問題です。
エネルギーに関しては、ガソリン価格の高騰では、政府が発動した価格抑制策に加え、昨日萩生田経産相は、ガソリン税の軽減も視野に追加対策を検討する可能性を示唆、つまりはガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」に関し「有効的に使えるなら、使うことは常に考えていかなければいけない」との考えを示しました。
この「トリガー条項の凍結解除」案は、国民民主党が以前から提案しているものですが、国民生活や経済活動への影響を最小限とするため、臨機応変な対応が求められるところです。
そして萩生田経産相が、原油価格について、ウクライナ情勢の緊迫化など事態が変化すれば「春を迎えたら、だんだん下がっていくだろうという安易な推測ができなくなってくる」と指摘したことは原油に限ったことではなく、日本が高い割合で依存している液化天然ガス(LNG)にも言えることであります。
「世界は熾烈なエネルギー資源争奪戦」だと繰り返し申し上げてきていますが、ロシアに天然ガスを依存する欧州が米国や中東からの代替調達に動いており、日本経済新聞社が船舶の位置を捕捉する衛星データの分析結果によると、欧州海域ではLNGの運搬船が7割増えたとのこと。
欧州の天然ガスの多くはロシアから陸路(4系統6ラインのガスパイプライン)で輸入しており、この先ウクライナ問題で停止されることを懸念しての動きであり、過去最低水準にある天然ガスの在庫の減少を止め、どれだけ増やせるかは欧州のロシア戦略を左右すると見られています。
【欧州海域でLNGの運搬船数の比較。黄色の点がLNGの運搬船。(日本経済新聞WEB版より引用)】
「それは欧州の話しで日本とどう関係あるのか?」とお感じかと思いますが、ロシアからの供給が停止した場合、サハリン産LNGを購入している電力・ガス会社の調達計画に狂いが生じるほか、アジア向けスポットLNG市場から不足分を調達しようにも、天然ガス需給の厳しい欧州の動向に引きずられ、価格が高騰する可能性があります。
つまりは、ウクライナ情勢の緊迫化を受け、日本が輸入する燃料の数量・価格への影響が懸念されている状況にあるということになります、
なお、日本はロシアから一般炭も一定量輸入しており、業界関係者は警戒を強めているともあります。
こうした状況を捉え、国際エネルギー経済社会研究所代表の松尾豪氏は、自身のTwitterでこう述べています。
「エネルギー安全保障について再考すべき時が来た。リアリズムに徹した「計画」と、夢を描く「目標」を区別せねばならない。当然、計画の策定にあたってはリアリズムに徹するべきで、国際政治学の諸先生方のお力添えが必要になっていると認識。」
ただでさえ電力需給逼迫に喘ぐ日本にとって、他国からのエネルギー資源獲得危機(調達価格高騰を含む)は、電力の供給不足に直結する、まさにエネルギー安全保障に絡む問題です。
ガソリン価格に対し萩生田経産相は「有効的に使えるなら、使うことは常に考えていかなければいけない」との考えを示しましたが、このエネルギー危機に当てはめた場合、それに該当するものとは何か。
裏を返せば、「有効に使えるのに使っていない電源」は「原子力発電」であり、究極のリアリズム(現実主義)に立てば、既存原子力をフル稼働させることも視野に準備しておかねばならないと考える次第です。
エネルギー資源獲得に喘ぐ国は、国際競争力において脆弱で、先の大戦から日本がとてつもなく大きな代償と引き換えに学んだことは、まさにそれではなかったかと思う訳であり、私が原子力発電の早期再稼働を望んでいるからなどとのちっぽけな考えで述べている訳でないことはご理解いただけるのかと思います。
迫り来る危機を前に、国の政策決定をされる方々におかれましては、今度こそ「空気感」ではなく「現実主義」で、リスクとベネフィット(利益)の兼ね合いを正しくご判断され、対応を講じられますよう切に願う次第です。