「原子力発電を最大限活用」の意味するところとは

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東北電力は14日、原町火力発電所2号機(石炭:100万キロワット)が同日午前0時に運転を再開したと発表。
 
原町2号機は元々、3月5日から7月3日を期間として進めていた定期点検中に、3月16日の福島県沖地震で被災し、変形したボイラー内部の配管を補修する関係から、当初の点検期間を10日程度延長していたもの。
 
先行復旧した1号機(同)を含め、厳しい電力需給にプラスの影響を与えることを喜ばしく思うところです。
 
また、西日本では関西電力の大飯発電所4号機(加圧水型軽水炉:定格電気出力118万キロワット)が定期検査を終え、15日に原子炉を起動。
 
本日16日には臨界に達すると発表しており、その後は7月17日に定期検査の最終段階である調整運転(実際に送電すること)を開始、8月12日には総合負荷性能検査を実施のうえ、本格運転を再開する予定としています。
 

【15日に原子炉を起動した大飯発電所4号機(手前)】
 
同機は、新規制基準で要求されるテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)の運用を8月10日に開始する予定で、調整運転中に同施設が運用を開始する初のケースとなるとのこと。
 
ちなみに、この特重施設の設置に関しては、プラント本体の設計・工事計画認可から5年間の猶予期間が設けられており、大飯4号機は8月24日が期限となっています。
 
特重施設の設置については、現在13基で原子炉設置変更許可に、5基が運用開始に至っており、最近では、7月13日に東京電力柏崎刈羽6・7号機について、規制委員会が審査書案を了承しているところ。
 

【特定重大事故等対処施設の状況(原子力産業新聞より)】
 
こうして火力、原子力、それぞれの発電所が稼働することにより供給力が増す状況にありますが、忘れてならないのは、この夏を乗り越えたとて、電力需給が一層厳しいのは「今冬」であるということ。
 
現に、安定供給に最低3%は必要とされる予備率についても、来年1~2月に東電、東北電管内では1.5%に留まる厳しい状況が見込まれていることからも明らか。
 
岸田首相は「今冬に原子力発電所最大9基稼働」を掲げ、さも特段の判断をしたかのように報道されていますが、既に原子力規制委員会の審査に合格して再稼働済みのプラントは西日本の10基、そのうち、検査のため運転を停止する九州電力玄海4号機を除く9基で、今冬をやりくりするしかないのが実情であり、何か政治判断がされた訳ではないと言えます。
 
さらに言えば、9基の原子力発電所がすべて稼働したとて、これらはすべて規制委員会による安全審査に合格した「西日本」の発電所が対象です。
 
3月の需給逼迫警報や6月の需給逼迫注意報は、すべて首都圏を含む「東日本」で発令され、同地域の電力不足は深刻さを極めていますが、西日本で発電した電力を東日本に融通できる量は、周波数変換や送電網の容量もあって限定的です。
 
「原子力発電を最大限活用」し、電力の安定供給を確保するためには、東日本における原子力発電所の再稼働が欠かせない訳であり、即ちそれは、審査が進んでいる日本原電の東海第二、東電柏崎刈羽7号機、東北電力女川2号機と福島第一原子力発電所と同じ「沸騰水型軽水炉」の再稼働判断を意味するもの。
 
立地自治体の地元の皆さんはもちろんのこと、近隣市町、さらには東京を始めとする電力大量消費地の皆さんのご理解を得ることに対して、事業者任せにせず、この場面でこそ国が全面に出て、再稼働の必要性を説明する。
 
「原子力発電を最大限活用」の意味のひとつには、こうしたことが挙げられると考えますが、岸田首相の覚悟、腹はいかに。