2021年12月26日
高校生の取組みに感銘を受ける 〜福井県 高校生の原子力に関する意識調査2021より〜
「若い力」が持つ可能性は無限大とは良く言いますが、その言葉の通り、最近、高校生たちの取り組みで感銘を受けたことがありました。
少し前の新聞にも掲載されていたのですが、日本原子力文化財団が、全国の高校・高専生がエネルギー・原子力について調査、研究した成果を報告する発表会を東京大学で開催。
同財団は、自らの疑問に沿った調査、研究を進めることを通じ、生徒たちに原子力、エネルギーに対する理解を深めてもらうため、高校・高専を対象とした支援事業を実施しており、毎年10校程度の活動を支援しているとのことでしたが、今回オンラインでの参加を含め、10校11チームが約半年間の活動結果を報告のうえ、審査した結果、最優秀賞を受賞したのは「福井県 高校生の原子力に関する意識調査2021」に取り組んだ福井南高等学校(福井市)でした。
この福井南高校は、以前に廃止措置中の日本原子力発電(株)東海発電所から発生した廃材を用いた「クリアランスベンチ」を貸与設置した経過もある訳ですが、今回は原子力問題に関心を持った同校の女子生徒3人が、同じ福井県に住んでいて、原子力発電所が立地している嶺南とそうでない嶺北とでは、原子力発電に対する意識やイメージに違いがあるとの仮説を立てたうえで、同じ高校生が原子力や高レベル放射性廃棄物の地層処分をどう捉え、どのような考えを持っているかについて率直な意見を共有したいとの思いを持って、福井県内の高校2年生を対象に大規模な意識調査を行ったもの。
この意識調査は、県内外の大学教授らの指導を受けながら10月にインターネットを使ってアンケート方式で行われ、37校1807人から回答を得たこともさることながら、「さまざまな立場からのコメント」として、新聞記者やジャーナリスト、原子力推進側・慎重側双方の識者など23名もの方からの寄稿を掲載しており、大変内容の濃いものとなっています。
アンケートでは、原子力に対するイメージは、明るい、暗い、安全、危険、必要、不要など14項目から複数選んでもらう形で尋ねたところ、「必要」「役に立つ」の合計では、嶺南68.8%、嶺北61.2%、県外46.9%となったほか、「安全」の回答率は嶺北2.8%、県外4.1%で1桁台だったのに対し、嶺南は14.0%とあり、原子力発電所との距離と相関関係が見られる結果となったとのこと。
また、「原子力発電所を意識した年齢」では、小学生以前と答えたのが全体では4%であるのに対し、嶺南では10%に昇ることや、「危険」のイメージを選んだ割合が80%に対し、「怖い」は0.7%と極めて低く、出身地別でみると、嶺南69.4%、嶺北82.3%、電力消費圏を中心とした県外87.8%とここでも距離との相関があることを興味深く拝見した次第です。
なお、意識調査の結果についての詳細は、福井南高校のホームページ「生徒たちの探求活動報告」に掲載されていますので、関心のある方は以下リンクにてご覧ください。
→→→福井南高校「福井県 高校生の原子力に関する意識調査2021」はこちらから
【同校ホームページ掲載の「意識調査2021」表紙】
私はたまたま冊子版を拝見する機会があったため、「さまざまな立場からのコメント」も拝見させていただきましたが、文字通り「さまざまな角度・視点」から本アンケートに対する細かな分析や原子力や地層処分の考え、さらには高校生の皆さんへのメッセージが記載されており、大変読み応えがありました。
紹介したいことは沢山あるのですが、その中でも「高校生に向けたメッセージ」で特に記憶に残った2点だけ紹介させていただきます。
1点目は、大手民間会社の福井県担当としてお勤めの方の言葉で、「これからの社会で生きてくる力」としてあった3項目について。
◉「批判的思考力(人を非難したり否定したりする意味ではなく、なぜ?本当?と問い、情報を正しく見つけ、論理的に考える力)」
◉「協働的思考力(自分の意見と違う意見も踏まえ、なんで違うのかな?この人はどう考えたのかな?とその人の裏にある考えを踏まえて議論を前に進める力)」
◉「創造的思考力(具体と抽象を行き来しながら、目標達成への課題と解決策を考える力)」
2点目は、公害問題などに取り組まれ、原子力に対しては反対の立場から活動を進めて来られた福井県内の元市議会議員の方の言葉。
「最後に、原子力の問題に限らず、高校生の皆さんには、私も含めて他人の意見を鵜呑みにしないようお願いしたい。日頃から新聞やテレビのニュースに目を通し、自ら情報を丹念に読み込んで、自説を持っていってほしい。」
これらの言葉は、自分自身にとっても非常に胸に沁みるものとなりました。
そして最後に、何と言ってもこの難しく壮大なテーマに取り組まれた3人の高校生の思い。
一人は、「地球温暖化は人類共通の課題であり、関係ない人はいない。特に、人生100年時代と言われる将来を生きていく私たちにとっては大問題であり、カーボンニュートラルについて、もっと若者視点で学ぶことのできる環境が必要である。」。
一人は、「地域の意識差が明確に表れている結果もあれば、変わらないものもあり、私の中のモヤモヤがひとつ晴れたような気がする。この結果を多くの高校生で共有して対話のきっかけとしてもらいたい。教育で地層処分の問題に触れられる土壌をこれからも創っていきたい。」
そして最後の方は、「原子力の話しになると決まって福島というキーワードが出てくる。イメージだけで福島県の人はこう思っているだろうと決めつける場面はよく見てきたし、自分自身も福島の高校生と対話するまではそうだった。これも風評被害だ。周りからの情報だけで判断せず、環境やエネルギーの問題を国民一丸となって議論していく。すぐ答えが出るものではないが、議論で出てくるモヤモヤとした感覚が、この問題を考えるうえで大切だと思う。その感覚こそが『知りたい』の原動力となるのだから。」
この3人それぞれの取り組んだことに対する成果、それを踏まえてのご自身の受け止めを聞けば、これ以上言葉を述べること自体が野暮というものでしょう。
財団の成果発表会では「嶺南と嶺北の生徒の意識の差を共有し、原子力発電所を知ることで、若者が議論する土台をつくることにつながる」とも述べられたとのこと。
冒頭述べたよう、私自身、この高校生たちの考えや取り組みに大きな感銘を受けるとともに大いに学ばせていただいた次第です。
こうして客観的視点をもって論理的に考えられるということは、エネルギーの分野のみならず、国内でも不一致課題とされる憲法改正や国家安全保障の問題にも通ずると思うところであります。
本当に頼もしい「若い力」は、地域の、いや日本の宝であり、大切に育てていくことに私自身、少しでも力になれればと思う次第です。