2021年5月26日
今夏、今冬に再び迫る「電力需給逼迫」の本質的な要因は何か
これまでもお伝えしてきています、国の根幹を成す次期「第6次エネルギー基本計画」策定に向けた論議も佳境を迎え、いよいよ骨子案が公表されるであろう段階に入ってきています。
そうした中、本基本計画見直しに向けては、自民党の総合エネルギー戦略調査会が25日、党本部で会合を開き、原子力発電所のリプレース(建て替え)や新増設を可能とする対策を政府に求める提言を大筋で了承し、計画への反映を目指すとのこと。
また、2030年度の原子力発電比率は現行目標(20~22%)の維持・強化を掲げるとともに、原則40年としている原子力発電所の運転期間の在り方も含め、長期運転の方策についての検討を求めつつ、再生可能エネルギーは主力電源として最大限導入するため、電力系統の整備やコスト低減に努めるともしています。
これらの提言も受けつつ、政府が、2050年カーボンニュートラルや2030年温暖化ガス排出46%削減(2013年比)など野心的な目標を掲げる中での、言わばエネルギー産業の激動期に、それら目標の達成に向け、政府がどのような10年後を描くのか、従前以上に注視をするところです。
さて、同じくエネルギーの話題ですが、何を置いても国民生活や経済活動に欠かせないのは「電力の安定供給」。
これに関しては、今年1月の電力需給逼迫が記憶に新しいところですが、経済産業省は25日、今年度の夏と冬の電力需給が逼迫する見通しとなっているとして、発電事業者に燃料の十分な確保を求めることや、利用者に無理のない範囲で省エネの協力を呼びかけることなどを柱とする対応策をまとめ、有識者会議に報告しました。
電力供給にどれだけ余裕があるかを示す予備率は最低3%は必要とされていますが、今年8月の夏のピーク時に、北海道や九州電力管内を除く各地域の予備率は3.8%になると予想されていて、新型コロナウイルス禍で引き続き在宅率の高い状況が続けば、家庭での電力需要も増え、予備率がさらに厳しいものになる可能性もあると指摘しています。
冬はさらに厳しく、来年2月のピーク時には東電管内で予備率がマイナスになるほか、北海道、東北を除き3.0%と切迫する予想で、予備電源は迅速に稼働でき発電量が安定する火力発電が適していることから、経産省は休止中のLNG火力などの再稼働を念頭に置くとのこと。
電力需給逼迫の背景には、液化天然ガス(LNG)火力を中心とする火力発電所が固定価格買い取り制度(FIT)で支援する再生可能エネルギーの発電量拡大に伴い、火力発電の取引価格が低迷し、事業環境が悪化していることやベースロード電源である原子力発電の再稼働が進まないことが大きく影響している訳ですが、何と言っても最大の課題は、現在の「LNG依存度の高さ」にあります。
国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏は、自身の寄稿の中で、以下のように述べています。
(以下、記事抜粋)
今般の電力危機の本質は、わが国の電力の約4割を依存するLNGの不足である。LNGは-162℃という超低温で液体にして輸送・貯蔵するので、長期保存に向かない。
わが国の発電事業者の備蓄は2週間分程度しかないことは周知の事実で、それだけに性急な脱石炭や脱原発で天然ガス依存を高めている現状にリスクがあることは、関係者から繰り返し指摘されていた。
調達不足に陥った原因は、需要予想の見誤りだったのだろうか。その可能性も否定できない。
しかしコロナの影響で2020年秋までは需要の停滞が続いていた。長期契約のLNGが受入基地のタンク容量を超えれば安価で転売せざるを得ず、九州電力は2019年度第2四半期決算において、下期発生見込み分を含め140億円程度の転売損失を計上したとされる。
国家備蓄を検討するか、民間事業者の燃料調達に余裕を見込むことを求めるなら手当をしたことで発電事業者が損失を被った場合の救済措置などをシステムとして構築すべきだろう。
(中略)
燃料不足が起これば燃料切れによる発電所脱落、ひいてはブラックアウトという最悪のシナリオがあり得る。具体的には、どこかのLNG基地の在庫が下限を下回れば発電所が停止する。
そうなれば、普段周波数調整等に使っている揚水発電を、kWhを得るために使わざるを得なくなるが、フルで発電すれば5~6時間程度で揚水発電の上池の水は尽きてしまう。
こうした最悪シナリオを回避するために、発電事業者はLNG基地へのLNG船入桟の遅れの可能性も考慮し(冬の荒れた海からLNGを荷揚げするのは予定通りいかないことも多い)、その分のマージンを織り込んで、早めに発電出力抑制をかけることとしている。
燃料不足が懸念される中では、火力発電所が出力を絞った運転をせざるを得ず、市場への投入量は減少する。
このような指摘がされている訳ですが、LNG依存度を上げざるを得なかったのは、国民に費用負担を強いてでも、太陽光など再生可能エネルギー比率を高めようとしたことや、環境面から石炭や石油火力をまるで悪のように言われ、環境負荷の低いLNGを優先して運転せざるを得ないこと、さらには先に述べた本来ベースロードとしてあるべき原子力発電の比率ががわずか6%でしかないことなど、複合した要因が挙げられます。
この需給逼迫のニュースを見ても、休廃止している火力発電を動かせばどうにかなるかのような雰囲気が漂っていますが、上記で述べたように、根本要因が、国が採った政策による供給構造自体の問題と考えることからすれば、決してそう簡単に解決する問題ではありません。
これが、わが国のエネルギー政策を考えるうえで基盤となる「S+3E」(安全を大前提に、エネルギー安全保障、経済性、環境の同時達成を果たす)のひとつの「E」(安全保障、安定供給)の実態であり、こうしたことも強く念頭に置き、エネルギー政策を考えねばならないと危機感すら覚えるところです。
私は、決して再生エネルギー否定論者ではありませんが、天候任せで不安定な太陽光や風力の比率を上げれば上げるほど、電気を溜めておける技術が確立するまでは、必ずそのバックアップ電源が必要であること、既存の確立した脱炭素電源である原子力発電を使わずしてまで、需給逼迫のリスクを負う必要がどこにあるのかということだけはお分かりいただければと思います。
こう憂えば憂うほど、次期「第6次エネルギー基本計画」の重要性は高まるばかりであり、政府は覚悟を持って、真に現実的な政策を国民に示すよう、切に期待して止みません。
【大変革期の日本のエネルギー政策をどう考えるのか(写真は、国際環境経済研究所HPより引用)】