英政権交代にみる健全な「民主主義」

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民主主義国家において、いかなる理由があろうとも、暴力で言論封殺されることは断じて許されない。
 
三連休明けの昨朝は、曜日をスライドしての街頭演説を行いましたが、大きな話題として触れざるを得ないトランプ前大統領銃撃事件に関しては、冒頭の言葉をもって、自らの意思を申し上げたところです。
 
大統領候補と日本の一地方議員では、格の違いはあるにせよ、同じ民主主義国家の中に生きる政治に携わる者として、引き続き、自らの理念と信念に従い活動する所存です。
 
さて、日本では2年前の安倍晋三氏の件、そしてアメリカでの今回の事件、さらには昨今の政治を巡る他者への非難や批判が繰り返される姿を見るに、民主主義の根幹とは何かと自問自答するところ。
 
そうしたなか、SNSなどを中心に称賛されているのが、7月5日に下院総選挙が行われたイギリス。
 
この総選挙では、現政権の保守党が大敗を喫し、これに伴いリシ・スナク首相が辞任。
 
労働党の党首であったキア・スターマー氏が、イギリスの第80代首相となり、14年ぶりの政権交代を果たしたことは既にご存知のことと思います。
 
ここで称賛されているのが、総選挙を終え、新たに首相に就任したスターマー党首と退任したスナク前首相が5日、官邸前でそれぞれ就任と退任の演説で互いにエールを送ったその内容。
 
スターマー氏は「退任するスナク氏に感謝したい」と切り出し、「わが国初のアジア系首相としての彼の偉業、その努力は、誰も過小評価できない」と述べるとともに、スナク氏は両親がインド系移民で、英国史上初のアジア系首相だったことにも触れ、さらに「私たちは皆、彼の仕事熱心さを知っている」とスナク氏の献身的な仕事ぶりを称えました。
 
一方、これに先立って退任演説をしたスナク氏の内容に関しては、“NEWS PICKS”で青山学院大学准教授の米山明日香氏が「スナク首相の退任演説に見る『民主主義』の姿とは」のタイトルで分析されており、その一部をご紹介いたします。
 
・「この国の皆さんに、真っ先にお伝えしたいのが、申し訳ないということです」
  →大敗を喫したことへの謝罪の言葉。この後にも、謝罪の言葉を口にしています。
・「この職務において(首相として)、彼(スターマ首相)が成功することは私たちすべての成功となります。彼とご家族の幸せをお祈りします」
  →政権移行がスムーズにいくよう、配慮した言葉といえるでしょう。
・「この選挙戦において意見の相違が何であろうと(意見の相違があったが)、彼は立派で、公共心あふれる人物で、尊敬しています」
  →「個人の利益よりも公共の利益を考える」といった意味で、イギリスにおいて、特に公的な職に就く人、その育成機関(大学の政治学科など)などでは重視される価値観の1つです。
・「イギリスのもっとも驚くべき(特筆すべき)ことの1つは、私の祖父母がほとんど何も持たずにここ(イギリス)に来てから2世代後に、私が首相になれたということが特に驚くことではないということです」
  →イギリスの寛容性を指す言葉だと受け取れます。
 

【官邸前で退任演説をするスナク前首相」
 
米山氏は続けて、スピーチの専門家の立場からすると、退任の演説は高く評価できるでしょう。極めて潔い引き際であったと思います。同時に、スターマー新首相も、スナク氏への言葉はあたたかさが伝わる言葉でした。
 
さまざまな問題を抱えるイギリスではありますが、今回のスナク首相からスターマー新首相へのスムーズな政権移行の姿を見ると、(少なくとも形式的には)イギリスには健全な民主主義がまだ根付いていることを再確認することができたように思います。
 
アメリカでは、前大統領から新大統領への移行において訴訟沙汰になるなど、民主主義の根底が揺らぐ状況をここ数年、目の当たりにしてきました。これから11月にアメリカ大統領選挙を控えているわけですが、イギリスのようなスムーズな政権移行が行われることを願います。そして、日本の政治の場においても、このような清々しいやり取りが見られることを心から期待します。
 
と結んでいます。
 
スナク氏は、過去200年以上で最も若いイギリス首相で、イギリス初の南アジア系首相、下院初当選から7年での首相就任は、現代イギリスで最速であったことは有名ですが、単に優秀というのみならず、この演説に表れるよう、他者への配慮や尊敬のもと、愛する祖国の発展のため「言論をもって」意見を戦わせ、勝ち負けは厭わず、自らは常に公に尽くす。
 
その精神と行動こそ、民主主義の根底に流れるものであり、であるからこそ、この若さ、スピードでの首相に選ばれたものと認識するところ。
 
翻ってわが日本。
 
他者への配慮も尊敬もなく、ただ非難や批判ばかりしていては、とても成熟した民主主義国家とは言えません。
 
対立や対決を煽る政局ではなく、どう解決するかに力点を置き、健全な議論をする。
 
一地方議員ではありますが、スナク氏のような良きお手本に習い、しかと心掛けてまいる所存です。