2020年10月17日
福島第1原子力発電所の処理済水「海洋放出」について
東京電力福島第1原子力発電所で汚染水浄化後に残る放射性物質トリチウムを含んだ処理済水の処分に関し、政府が「海洋放出」を選択する方針を固め、月内にも関係閣僚による会議を開いて決定するとのニュース。
福島第1原子力発電所の敷地内に保管されている処理済水の処分方法を巡っては今年の2月20日、経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」の報告書にて、処理水を蒸発させる「大気放出」と「海洋放出」を現実的な選択肢として提示。
そのうえで放射線を監視しやすい「海洋放出」の方がより優位な方法だとの見方を示していました。
→→→公表された小委員会報告書はこちらから
この処理水の問題については、このままのペースで増加し続ければ、保管タンクの容量が令和4年夏頃には満杯になることに加え、海洋放出には、設備工事や原子力規制委員会の審査が必要で、放出を開始するまで2年程度要するとされていることから「待ったなし」の状況となっていることは、これまでの報道にある通りであります。
一方、海洋放出には風評被害を懸念する漁業関係者からの懸念が強く、梶山弘志経済産業相は9月のインタビューにて「風評被害対策を継続的にやっていく前提で、政府が責任を持って決断していく」と述べていたほか、今後は、風評被害対策の具体化に向け、政府は新たな会議体を設置するとされています。
ここで、ひとつこのグラフをご覧ください。
これは、先に記載した小委員会報告書に示された、保管タンクに貯蔵されている全てのALPS処理済水の処分を毎年継続した場合と自然放射線による放射線影響の比較となります。
ご覧のように、水蒸気放出及び海洋放出について、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の手法を用いて放射線影響の評価を行った結果、仮にタンクに貯蔵されている全てのALPS処理水の処分を毎年継続したとしても、いずれも自然放射線による影響(2.1mSv/年)の「1000分の1以下」であります。
こうした科学的な情報により、影響レベルの大小をイメージしていただき、しっかりと情報発信をして行くことが、風評への影響を抑えるために重要と考える訳であり、報告書でもそのことが示唆されています。
また、海洋放出については、国内外の原子力施設においてはこれまでも、トリチウムを含む液体放射性廃棄物が冷却用の海水等により希釈され、海洋等へ放出されていることや福島第一原子力発電所では、放出管理の基準値は、年間22兆Bqと設定されていましたが、国内の原子力発電所から1サイト当たり、約316億〜83兆Bq/年(福島事故前3年平均の実績)放出されており、処分量との関係でも実績のある範囲内での対応が可能であると考えられています。
さらに、放出設備の取扱いの容易さ、モニタリングのあり方も含めて、海洋放出の方が確実に実施できるということも利点の一つであります。
では、世界各国はどうしているのかと言えば、これも小委員会報告書にて示された以下の図をご覧ください。
【同報告書:図6.国内外の原子力施設からのトリチウムの年間放出量について】
言わんとすることは、もうお分かりいただけると思います。
海洋放出は日本だけが特例として行うものではなく、世界標準としての処理方法であり、もうひとつ言わせていただければ、お隣の韓国からとやかく言われる筋合いもないこともご理解いただけるものと思います。
もちろん、こうした件に関しては個人個人のお考えもありますので、考えを押し付ける訳ではありませんが、こうして解説させていただくことで、ニュースや新聞で報じられることと現実の照らし合わせを少しでもしていただければと思うところであります。
「処分開始の時期や処分期間については、こうした時間軸や風評への影響を踏まえて、関係者の意見を聴取し、政府が責任を持って決定すべきである。その際、国民理解の促進を図り、具体的な風評被害対策を示すことが重要である。」との小委員会提言を受け、現在のプロセスに移行していることに加え、科学的且つ合理的に判断することの重要性、そして何をおいても福島第一廃炉作業を着実に進めることこそ福島復興への最も大事な足掛かりとなるとの視点のもと、私自身、その現実を少しでも知っていただけるよう活動にあたっていきます。