原子力発電所の運転を巡る二つの裁判

ブログ 原子力

昨日のブログにて、18日の一番の関心事として注視するとした原子力発電所の運転に関する二つの裁判について、判決が下されました。
 
まず、四国電力の伊方発電所3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを命じた、昨年1月の広島高裁の仮処分決定を不服とした四国電力の申し立てによる異議審について。
 
広島高裁は、四国電力側の異議を認め運転を容認する決定を下しました。
 
判決に関しては、真っ当な判断がされたものと受け止めるところでありますが、この伊方発電所3号機の運転差し止めの仮処分を巡っては、3年余りで司法判断が二転三転しており、広島高裁では今回を含め、運転を認めたのが2回、差し止めとしたのが2回、「世界最高水準の基準」とする国の新規制基準に適合した原子力発電所が裁判所の判断に翻弄されるという、いわゆる「司法リスク」が露呈する形となっています。
 
次に、日本原電の東海第二発電所(茨城県東海村)運転差し止め訴訟に関する水戸地裁の判決について。
 
水戸地裁は、判決要旨にて「人格権に基づく原子炉運転差し止め請求に係る具体的危険とは、深層防護の第1から第5のいずれかが欠落し、また不十分なことをいうものとして解釈したうえで、本件訴訟の争点のうち、第1から第4の防護レベルに係る事項については、その安全性に係ることがあるとは認められないが、避難計画の第5のレベルについては、本件発電所の原子力災害対策重点区域であるPAZ(概ね半径5キロ以内)、UPZ(概ね半径30キロ以内)の住民は94万人に及ぶところ、原子力災害対策指針が定める防護措置が実現可能な避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているというには程遠い状態であり、防災対策は極めて不十分であると言わざるを得ず、PAZ及びUPZ内の住民である79名との関係において、その安全性に欠けるところがあると認められ、人格権侵害の疑いがあると判断した。」との理由を示しました。
 
つまりは、耐震設計の目安となる揺れを示す「基準地震動」といった耐震性や津波の想定、火災対策などを含め、原子力発電所の安全性に関しては、日本原電の評価手法に「合理性」があるとし、原子力規制委員会の適合性判断の過程に「看過しがたい過誤、欠落があるとまでは認められない」としながらも、国の原子力災害対策指針に基づき、茨城県や周辺市町村が定める住民らの広域避難計画について、東海第二発電所の半径約30キロ圏内14市町村のうち、多くの人口を抱える水戸市や日立市など9自治体では、昨年の結審時点で広域避難計画を策定していないことや茨城県が平成27年に策定した広域避難計画についても、大規模地震で道路が寸断された場合の住民への情報提供手段具体化や複数の避難経路設定がされていないことなども挙げ、住民らの人格権を侵害する「具体的危険がある」と結論付けた形となっています。
 
これに対し、同日、日本原電はホームページ上にて「本日の判決は、当社の主張をご理解いただけず、誠に遺憾であり、到底承服できないことから、判決文の詳細を確認のうえ、速やかに控訴に係る手続きを行います。」とのコメントを発出しています。
 
発電所の安全性に関わる技術的・科学的評価に対し、日本原電の主張が認められたことは一つの試金石であると受け止めるものの、各近隣市町が避難計画策定中の現段階を捉えて判断されては、それはそれで厳しいもの。
 
裏を返せば、再稼働に向け将来的に策定が進めば、判決の視点もクリアされていくのではと私見として考えるところです。
 
いずれにしても、日本原電は「控訴」するとのことですので、今後の対応、裁判の行方に引き続き注視をしていかねばなりません。
 

【安全性向上対策工事が進む東海第二発電所(日本原電ホームページより引用)
 
このように原子力発電所運転の可否を巡る判決に関しては、福島第一原子力発電所事故後、事業者や国に運転差し止めを命じた判決や仮処分は7件ありますが、このうち5件は高裁などで判断が覆り確定したものはなく、昨日の広島高裁と水戸地裁が下した判断もその一例といった状況にあります。
 
このことは、日本のエネルギー政策を巡る不確実性の大きさを浮き彫りにするものであり、判決のたびに原子力発電所の危険性ばかりが強調される悪循環が続けば、国民理解や冷静な議論を阻害するに留まらず、我が国が今後目指す「脱炭素化」や「S+3Eを基本」とした国の根幹に係るエネルギー政策を誤らせることになりかねないと強く危惧するものであります。
 
以前の繰り返しとなりますが、三権分立の中においても、原子力発電所が大規模で複雑なシステムであるが故、その裁判に関しては、高い技術レベルと専門性を有した専門の裁判官、裁判所を置いて科学的且つ客観的に判断を下すべきではと考えるところ。
 
ここで言っていても始まらないのかもしれませんが、「司法リスク」を抱えたままの状態は、民間事業者にとって「経営リスク」を抱えたままの状態となることを忘れてはならず、与える影響やその代償の大きさを鑑みるに、国や政治は、このことをいつまでも放置していてはいけないと警鐘だけは鳴らさせていただきたく存じます。