原子力分野の”世界の潮流”は「事業環境整備」と「規制改革」

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昨日の福井新聞1面には、関西電力高浜発電所の敷地内で使用済燃料を一時保管する乾式キャスク貯蔵施設について、原子力規制委員会が5月28日に設置を許可(2ヶ所中の1ヶ所目)したとの記事。
 
いわゆる「ドライキャスク」と呼ばれる乾式キャスク貯蔵施設に関しては、既に日本原子力発電の東海第二発電所をはじめ、国内でも複数のプラントで設置されていることも踏まえ、今後、円滑に計画が進むことを期待するところです。
 
原子力に関しては、このように日々、何かしらのニュースが掲載される訳ですが、国内はもとより、世界各国の動向をまとめて読めるのが「原子力産業新聞(以下「原産新聞)」。
 
ネットで、会員登録なくともほぼ全文が読めるため、私も常日頃から勉強のため利用している訳ですが、「世界の潮流」は、原子力開発を着実に、かつスピード感をもって進めるための「事業環境整備」や「規制改革」を具現化しているということ。
 
 →「原子力産業新聞」HPはこちら
 
ここ数日の原産新聞を見ても、例えば、「事業環境整備」に関してはスウェーデン。
 
スウェーデンおいては現在、家庭や企業向けの不安定な電力価格と電力システムの不均衡という大きな問題に直面しており、これに対処し、化石燃料を使わないベースロードを拡大する必要から、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表。
 
これには、カーボンフリーの電力を競争力のある価格で安定して供給することを目的に、社会の電化にともない総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型炉2基分、さらに2045年までに大型炉で最大10基分の原子力発電所を新設することなどが盛り込まれています。
 
また、スウェーデン議会(リクスダーゲン)は5月21日、国内の新規原子力発電プラントの建設を検討する企業への国家補助に関する政府法案を採択し、新規建設への投資が収益を生み出すまでの長いリードタイムを勘案し、政府の低い借入コストにより、信用リスクを政府に転嫁することで、資金調達コストの削減、ひいては原子力発電自体のコスト削減につなげるとしています。
 
また、大統領令により「新設の促進」や「原子力規制委員会(NRC)改革」を指示したのは米国。
 
米トランプ大統領は5月23日、原子力エネルギー政策に対する連邦政府のアプローチの再構築を目的とした一連の大統領令に署名し、人工知能(AI)産業、製造業、量子コンピューティングなどの最先端のエネルギー集約型産業での電力需要増に対し、豊富で信頼性のある電力を供給するため、エネルギー安全保障を確保するとともに、米国の原子力業界の世界的な競争力維持と国家安全保障の強化のため、2050年までに原子力発電設備容量を現在の約1億kWeから4倍の4億kWeとし、このために必要となる原子力の規制緩和を迅速に行う方針を示したとのこと。
 
なお、一連の大統領令は以下の4つ。
 
① 原子力産業基盤の再活性化
② エネルギー省(DOE)における原子炉試験の改革
③ 原子力規制委員会の改革
④ 国家安全保障強化のための先進的原子炉技術の導入
 
DOEに対しては、原子燃料の海外依存を回避するため、国内のウラン採掘と転換・濃縮能力の拡大計画や国内燃料サイクルの強化にむけた勧告を指示するほか、原子力拡大政策を支える労働力の拡大、NRCの改革の必要性を示しています。
 
特にNRCに対しては、許認可申請の迅速な処理と革新的な技術の採用を促進するため、政府効率化省との協業によるNRCの再編成、さらに民生用原子力発電の認可と規制に際し、安全性、健康、環境要因に関する従来の懸念のみならず、原子力発電が米国の経済と国家安全保障にもたらす利益を考慮するよう指示
 

【先進試験炉炉心 Ⓒ Idaho National Laboratory(原産新聞より引用)】
 
NRCにタイムリーな許認可を出すように要求することで規制上の障壁を取り除くとともに、新規炉は原子炉の種類に関わらず、建設と運転の認可プロセスの簡素化により、数年かかる審査プロセスを18か月に短縮、既設炉の運転期間延長の最終決定は1年以内と期限を定めるなど、許認可の迅速化を指示しています。
 
実際、先に施行されたADVANCE法は、原子力規制委員会(NRC)に対して、安全性を確保しつつ、審査プロセスの効率性も重視するよう求めており、NRCが昨年、2021年以来初となる第2回目の運転認可更新(subsequent license renewals)を承認したエクセル・エナジー社のモンティセロ原子力発電所(BWR, 69.1万kW)は、当初24,000時間を要すると予想されていた審査時間を、最終的に16,000時間で完了。
 
審査時間は3分の1に短縮されましたが、このような効率性は「例外」ではなく「ルール」とする必要があるとしています。
 
翻って日本。
 
原子力発電の最大限活用を掲げたものの、早期の再稼働が期待される既設炉の審査期間は10年を裕に超え、次世代革新炉の開発スピード、あるいは新設する際の事業環境整備はどこまで進んでいるのか。
 
第7次エネルギー基本計画にもある「国が前面に出て」との言葉が虚しく響くばかりと思うところですが、上記のスウェーデンや米国の例をはじめ欧州各国のように、国家経済や安全保障などの国益を踏まえた原子力規制や新設に対する国の資金支援など、そうした実が伴ってこそ、国の本気度が示されるのではないかと強く思う次第。
 
先の大戦がそうであったよう、世界は昔も今も「エネルギー獲得競争」であり、ロシアのウクライナ侵略以降、いわば「エネルギー戦争」状態にあるいま。
 
世界が自国の確実な電力供給、エネルギー自給率を上げるため「猛スピード」で原子力開発を進める一方、「掛け声だけ」のままでは、日本は遅れどころか、取り残されることになることは火を見るより明らかなこと。
 
日々、原産新聞を見る中で、こんな悠長にやっていて良いのかと、焦りは募るばかりです。