労多くして益なしの「自衛隊明記論」

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今月1日には能登半島地震発生から8ヶ月を迎え、発生直後から行われてきた自衛隊の災害派遣が先月31日、終了しました。
 
自衛隊によると、派遣期間は240日以上で、東日本大震災を上回り過去最長とあり、陸上自衛隊の隊員さんからは、「被災者の方々に対して一日でも安全安心で生活していただけるよう、日々手助けができるようという思いで活動して参りました」との言葉。
 
また、甚大な被害を受けた石川県珠洲市の泉谷満寿裕市長は、「本当に長期間に亘ってご尽力いただき、感謝の念に堪えません」とコメントしたほか、現地を去る隊員らを見送る住民からは「ありがとう」の言葉とともに涙ぐむシーンもあり、この間の両者の苦労、そして生まれた絆や信頼に感動した次第です。
 
一方、先月26日には、中国軍の情報収集機「Y9」1機が同日午前11時29分から約2分間、長崎県・男女群島沖の領空を侵犯。
 
防衛省が中国の軍用機による領空侵犯を確認したのは初めてとのことで、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)したほか、日本政府は中国政府に厳重に抗議し、再発防止を求めました。
 
防衛省統合幕僚監部の発表によれば、領空侵犯の「恐れ」がある外国機に対して航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した回数は、2023年度で何と669回。
 
2022年度の778回から109回減ったものの、推定を含め中国が22年度比96回減の479回で全体の約72%に上り、次いでロシア機が対象とのこと。
 
「令和5年版 防衛白書」を見ると、こうしたわが国周辺の安全保障環境がいかに厳しいものであるか、緊迫したものであるかが、数字としても読み取れる訳であり、エネルギーと同様、国の根幹に関わる外交防衛の分野においても「“超”現実的」な対応が必要と考える次第です。
 
 →「令和5年版 防衛白書」はこちらから
 

【わが国周辺の安全保障環境(令和5年版 防衛白書より抜粋)】
 
その対応のひとつが「憲法改正」にありますが、そうした中、自民党総裁選に向けて、各候補あるいは党内での憲法改正論議が話題に挙がるところ、自民党の「自衛隊明記論」を衆議院の憲法審査会で度々、「労多くして益なし」と指摘し続けてきた、国民民主党の玉木雄一郎代表が、以下のX(旧Twitter)ポスト(投稿)していました。
 
このことをご紹介するのは、国民民主党をPRしたいからではなく、憲法改正の際に最終的な判断者となる皆様にも、どの考えが「現実的」なのかお考えいただく際のご参考になればと思い、掲載することをご理解いただきたく。
 
<以下、玉木代表のXポスト>
 
先日発表された自民党の憲法改正実現本部「ワーキングチームにおける論点整理」を見ました。てっきり、憲法審査会の議論を踏まえたアップデートされた条文案でも出てくるのかと期待していましたが、まだ「論点整理」の段階。2018年の「改憲4項目」の発表からもう6年の月日が経ち、憲法審査会も何国会もやって、この程度の論点整理なのかと、残念な気持ちです。
 
その中身も相変わらずです。まず、9条2項に関して、2018年の「自衛隊明記論」は、論点整理ペーパーにもあるとおり、「自衛権行使の範囲の合憲性に関する議論には踏み込まない」妥協の産物としてまとめたものであるため、仮に憲法改正が実現しても、自衛隊の「組織としての違憲性」は解消されても、自衛隊の「行為としての(自衛権行使の)違憲性」が解消されない内容となっています。このことは、憲法審査会で何度も指摘してきたとおりです。
 
そもそも「自衛明記論」は、ペーパーにも書いてあるとおり、「9条1項・2項の条文及びその解釈を維持」する内容なので、改憲しても今と何も変わりません。具体的な法的効果がない条文です。その方針を、「自衛隊明記については「条文イメージ(たたき台素案)」という形で既に議論が決着」したとして、そのまま踏襲するとしたことは残念です。
 
それでも、あえて「自衛隊明記案」の意義を見出すとすれば、内閣総理大臣が自衛隊の最高式監督者であることを明記することでシビリアンコントロールを明確にすることですが、これは行政組織のあり様に関する規定となるので、9条の改正というよりも、第5章の「内閣の章」に位置付けるべきものとなります。
 
そもそも、戦後続いてきた自衛隊を巡る憲法論の中心は、自衛隊という実力組織が、憲法9条2項が禁止している「戦力」に当たるのか当たらないのかという条文解釈をめぐる神学論争でした。残念ながら、自民党の「自衛隊明記論」は、この神学論争に終止符を打つことができない内容です。
 
いわば「労多くして益なし」の改憲案です。何より、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め」る自衛隊の皆さんの強い責任感に報いるものになっていません。
 
改憲後もなお、「解釈の迷宮(ラビリンス)」から抜け出すことのできない改憲案にどれほどの意義があるのか、理解に苦しむところです。
 
自民党総裁選挙では、表層的ではない本質的な憲法議論を期待します。
 
<引用終わり>
 
来年は、戦後80年を迎えます。
 
国民民主党が掲げる政策の第一は、「自分の国は自分で守る」。
 
解釈論でやり過ごしてきた時代に終止符を打ち、至極当たり前のことを憲法で定めることができるか否か。
 
先に述べた周辺の安全保障環境を考えれば、待ったなしの論議に注視し、自分の考えも明確にする所存です。