2025年8月31日
『私が出会った三人の昭和の偉人たち』
昨日の福井新聞「越山若水」。
戦後80年の夏、犠牲者を追悼するいくつかを訪ね歩いたと書き出すコラムの結びにはこうありました。
忠霊碑、忠霊塔といった「慰霊の場」を世話にする人が減り、全国で維持が難しいと聞く。忘れてはいけない惨禍の教訓、それを形にして残し、伝え、気づかせようとした先人の意思が途絶えかねない。「寂しいけれど・・・」でよいのだろうか。
私自身、この節目の年に、戦没者戦災死没者を慰霊する場、戦争を「伝え、つなぐ」場に参列、参加してまいりましたが、そこで感じたのはは、「越山若水」にある、このままでは「途絶えかねない」との危機感でした。
現世を生きる人々が「大変だから」を理由に、先人が残した記憶を廃してしまっては、それこそ命と引き換えに国を護ろうとした英霊、犠牲になった方々は浮かばれないことから、ここ敦賀でも何をすべきか、しっかり考え、行動してまいる所存です。
さて、あらためてそうした思いをもって臨んだ敦賀市民歴史講座 シリーズI「戦後80年」第2講(主催:気比史学会)。
概要は、昨日ご紹介しましたとおり、「私が出会った三人の昭和の偉人たち」をテーマに、敦賀出身の元NHKプロデューサー山登義明氏にお話しいただくというもの。
昨日14時からの講座では、山登氏が「昭和の偉人」と称する「三人」。
戦後の日本文化の土台を築いた、向田邦子(作家、脚本家)、大江健三郎(作家、ノーベル文学賞受賞者)、河合隼雄(臨床心理学者、文化庁長官)の年譜をもとに、山登氏自身が制作した関連動画を交えながら、三人の生き方を見つめ直しました。

【配布した講座資料。左から、向田邦子氏、大江健三郎氏、河合隼雄氏】
プロデューサーとして山登氏が三人と関わる中で見せた、知られていない三人のエピソードなど交えてお話しいただき、向田邦子さんについては、森繁久弥さんとの出会いから、「週刊平凡」などで執筆を始め、その才能からすぐに頭角を表したこと。
また、その裏にいたのはNさん。
21歳で出会い、後に向田さんと交際する方で、結果的に彼のサポートにより彼女の才能が引き出されていったこと。
35歳の時にN氏が死去し、悲しみに打ちひしがれるものの、その後再起。
脚本家として名声を得、昭和50(1980)年の51歳の時には、小説を書いて2作目で「直木賞」を受賞するも、翌年、飛行機事故死。
N氏の死去から17年、52歳の若さで亡くなった向田氏は、「人に言えない悲しみがある」、「人生の悲しみに合うと死に近づく」とのメッセージを残したとありました。
続く、大江健三郎氏。
54歳で書いた著書「人生の親戚」にあるよう、人には切ろうと思っても切れない苦しみがある。
生涯小説家の大江さんは、自身が28歳の時に生まれた息子光(ひかる)が脳に障害を持っていることを知り、治療するか否かの究極の選択に迫られた際に、広島と出会う。
「被爆者に教えてもらった」との言葉どおり、これを機に光さんと生きていくことを決意した。
当時のことを大江さんは、「私と広島はジャストミートした。広島と出会うべくして出会った。」と語った。
1990年頃に初めて出会った山登さんに対し、大江さんが一番書きたいのは「こころ」と「魂」だと言い、その考えを貫いた結果、ノーベル賞受賞までに至った。
大江さんの生き様からは、「人生にはジャストミートする瞬間がある」ことを覚えておいてほしい。
最後の河井隼雄さんのテーマは、「コンステレーション」。
臨床心理学者の河合さんは、アメリカから持ち込んだ「箱庭療法」で一躍有有名に。
2002年に文化庁長官に就任した後に発生した※高松塚スキャンダルの対応に追われ、激務により倒れ、2007年に死去。
※1972年に発見された極彩色の壁画で知られる高松塚古墳が、発見後まもなく石室内部にカビが発生したことから始まった、文化財保護上の大問題
河合さんの研究テーマは最後まで「夢」であったが、晩年、「科学と宗教は近づいている」との言葉を残した。

【大江健三郎氏の生前最後の動画を前に熱弁される山登義明氏】
ポイントに過ぎませんが、以上が講座の概要。
三人の昭和の偉人が、その生き様から残した、それぞれのメッセージはまさに現世を見通しているかのようであり、とりわけ、大江さんがノーベル省の受賞式で発した言葉を踏まえた「曖昧さが重要な時代になってきている」との見方は、昨今のゼロか100かの、極めてデジタルな考え方、政治の世界も右傾、左傾双方が極端になってきているなど、私自身、そうしたリスクを胸に置いた次第です。
リアルな取材を通じて得た貴重なお話をいただいた山登さんには、気比史学会が節目で開催してきた、「戦後50年」、「戦後70年」の際にも登壇いただいたことを含め、重ねて感謝申し上げます。
結びに、昨日は約85名の方に参加いただきました。
大変暑いなか、足を運んでいただきましたこと、主催者の立場から厚く御礼申し上げます。
誠にありがとうございました。

【会場全景(講座開始前)。多くの皆様にお越しいただき感謝です。】






