2025年1月4日
「日本製鉄によるUSスチールの買収計画」に禁止命令
昨日は2025年の日米経済について、いずれもトランプ次期米大統領の経済政策が大きな不安材料とする専門家の見方を書きましたが、世界2位の規模を誇る中国も同じ懸念を抱えているよう。
2025年の中国経済は「内憂=内需低迷」「外患=貿易戦争」と表され、つまりは、不動産不況を背景とした内需低迷という「内憂」で失速し、さらに2025年にはトランプ次期米政権との貿易戦争という「外患」も見込まれており、中国共産党指導部は景気対策の強化方針を決めるなど臨戦態勢を示しているものの、経済安定への道のりは険しいと予想されています。
実際、中国の国内総生産(GDP)は2024年1~3月に前年同期比5.3%増、4~6月に4.7%増、7~9月に4.6%増と減速。
1月20日に発足する第2次トランプ政権で、同氏が大統領選期間中に公言した、中国製品に対する60%追加関税が課されることになれば、中国経済を支える輸出が打撃を受けることになる。
内需回復がうまくいかないまま本格的な貿易戦争に突入した場合、中国企業は関係が安定しているグローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)に輸出先を切り替えるも、相手国にとっては国内産業への打撃となりかねず、貿易摩擦の前線がグローバルサウスにも拡大する可能性があると見ています。
超大国の大統領交代は、巡りめぐって世界経済に波及することが良く分かるとともに、中国の「内憂・外患」は必ずや日本にも影響すると認識するところです。
さて、年明け早々、日米中のこうした関係性が浮かび上がるかの事態が発生。
日本製鉄と米鉄鋼大手USスチールが進めていた「日本製鉄によるUSスチールの買収計画」に対し4日、バイデン米大統領がこれに禁止命令を下しました。
なお、日本企業によるアメリカ企業の買収が大統領の命令で阻止されるのはこれが初めて。
【本買収計画を報じたNHK NEWS WEB画面】
これを受けて両社は、「法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」とのコメントを共同で発表。
また、両社は「米国政府が、米国の利益につながる競争を活性化する本買収を拒否し、同盟国である日本国をこのように扱うことは衝撃的であり、非常に憂慮すべきことだ。残念ながら、米国へ大規模な投資を検討しようとしている米国の同盟国を拠点とする全ての企業に対して、投資を控えさせる強いメッセージを送るものだ」とも批判し、バイデン氏の決定に「深く失望している」としています。
買収計画について、そもそも買収される側はどう考えていたかといえば、USスチールのデビット・ブリットCEO(最高経営責任者)が12月22日、ニューヨーク・タイムズに寄稿した言葉がこれを物語っています(以下、記事引用)。
◉この買収は「アメリカの製造業の未来にとって極めて重要な機会だ。アメリカは正しい決断を下さなければならない」と主張しました。
◉そのうえで、この取引が「事実上、アメリカの鉄鋼産業を維持できる唯一の選択肢だ。この取引を阻止することは、ピッツバーグが鉄鋼の街であった100年以上の歴史に終止符を打つことになる」と買収阻止の動きに警鐘を鳴らしました。
ご覧いただくとおり、本買収計画が、アメリカ製鉄業の生き残りを懸けたものであることが分かります。
バイデン大統領の判断は、社名の冠に「日本」「US」とあることから、買収によってアメリカが負け組になるかの印象を嫌ってかと揶揄する意見もありますが、そのような単純な話ではなく、大統領声明であったよう「国家安全保障上の懸念を理由に禁止する」とのこと。
今後の動向に注視するところですが、ここで出てくるのが中国。
デビット・ブリットCEOは同じくニューヨーク・タイムズに「中国はこの取引が失敗することを望んでいる。そうさせてはならない」とに寄稿。
日本製鉄による買収は「我々の最も強力な同盟国の一つとの関係を深めることによって、アメリカの世界的な地位を強化し、中国の露骨で野放図な市場操作に対抗することを可能にする」と指摘したうえで、「中国の競合他社もこの取引に注目しており、失敗することを望んでいる。この取引が実現すれば、中国による世界の鉄鋼生産の支配力は弱まるだろう。この協定がなければ、私たちはより脆弱になる。そうさせてはならない」として、日本製鉄による買収がアメリカが中国に対抗するうえでも重要だとの認識を強調しました。
まさに「日米中」、というより「米中」の関係性が浮かび上がる訳ですが、製鉄然り、原子力も新設の大半が「中露」であり、こうした分野の技術やシェアを席捲されることは、西側諸国にとって安全保障上の脅威となるもの。
CEOの言う「最も強力な同盟国」の関係、日本とアメリカそれぞれの安全保障、さらには世界全体の安全保障リスクを踏まえ、何がベストな選択なのか。
本買収計画を機に考える次第です。