2025年3月12日
「印象操作や不安の扇動に加担した」原子力発電所事故報道
それぞれのお立場、それぞれの思いの中で過ごした、東日本大震災から14年の昨日。
私自身、この大地震、そして東京電力福島第一原子力発電所事故を決して忘れることなく、また得られた知見や教訓をもとに、自然災害への備え、弛みなき原子力安全の追求に取り組む思いを改めて強めたところです。
また、原子力発電所事故の影響に関しても同じく、当時を振り返るに、様々な誤情報が飛び交い、被災地の住民はもとより、国民の皆さんの不安を助長させたことから、いかに科学的に、正確な情報を伝えるかが大きな課題となったことを思い返す次第。
その関係でいえば、3月6日の産経新聞記事に、『「印象操作や不安の扇動に加担した」原子力発電所事故報道、風評「加害」にメディアの責任は』のタイトルで、東日本大震災から14年を前に疑問を投げ掛ける記事が掲載されていました。
※記事中の「原発」は「原子力発電所」に置き換えています。
記事によれば、『東日本大震災から間もなく14年。東京電力福島第1原子力発電所事故の処理を巡っては、風評被害が常に問題になってきた。福島在住のジャーナリストで東日本大震災・原子力災害伝承館客員研究員の林智裕氏は「印象操作や不安の扇動などの風評『加害』が生まれ、そこに一部メディアが加担する動きもあった」と指摘する。処理水の海洋放出や除去土壌の処分など、原子力発電所事故の対応は今後も続く。風評被害を防ぐため、メディアの役割が改めて問われている。』との書き出しから、代表的な事例を挙げ、指摘。
風評被害とは、根拠のない噂や臆測などで関係者が受ける経済的損失などを指すもので、福島第1原子力発電所事故の後では、周辺地域の農産物や水産物が、放射性物質の検査結果が基準値を下回っているにもかかわらず、買い控えられる状況が続きました。
林氏は著書「『正しさ』の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か」(徳間書店)で、「情報災害」を「災害本体に付随する強い社会不安に伴った疑心暗鬼と風評、誤解によって起こる多様な悪影響のことを指す」と説明しており、分かりやすい例として「AERA」(朝日新聞出版)平成23年3月28日号で、根拠を示さず放射線被曝(ひばく)で鼻血が出たことを示唆する漫画や記事も相次いだことを、福島への差別や偏見の助長にメディアが加担する構図の具体例として、①誤解を招くタイトル、②事実の中に根拠不明な情報を混ぜ込む、③別の意味を持つ数値や単位の混同などを挙げました。
また、令和5年8月から行われた原子力発電所構内のタンクに貯蔵された処理水の海洋放出では、漁業関係者は風評被害の懸念から反対したものの、廃炉作業の障害となるため政府は放出を決断。
これに対し、中国政府は処理水を「核汚染水」と呼び、外交カードとして利用しましたが、経済産業省が処理水の定義を厳格化したことなどが影響し、造語や混同は減少。
令和5年に海洋放出が始まってからは、科学的データや国際比較に基づいて処理水を説明する報道が目立つようになったと。
【当時、東京電力ホールディングスも「処理水ポータルサイト」を立ち上げ、丁寧に説明していました。】
なお、海洋放出から1年を迎えた昨年8月、「あの」朝日新聞が中国政府の「言いがかり」を批判する社説を掲載したとありました。
さらに、原子力発電所事故後の除染によって、庭先や農地からはぎとって回収され、福島県内に大量に保管されている土を「放射能汚染土」と呼ぶことについては、環境省が放射性物質の濃度が1キロ当たり8千ベクレル以下の「除去土壌」は公共事業などでの再生利用が可能だと説明するとともに、全国数カ所で実証事業を検討中と説明し続けたことにより、その呼称はやがて消えたとも。
このように、原子力発電所事故を巡っては様々な「風評加害」がありましたが、結果して見れば、政府や関係機関、東京電力ホールディングスが科学的なデータをもって、丁寧に対応したことによって、それらを克服したと言えるのではないでしょうか。
私は以前より、築地市場の豊洲への移転問題の際に、当時の石原慎太郎元東京都知事が述べた「科学が風評に負けるのは国辱だ」との言葉を引用してまいりましたが、国や関係機関それぞれが、そうした信念に基づき対応されたことに敬意を表する次第です。
原子力発電所の事故のみならず、何かと「空気」で物事が決まる日本においては、「科学的根拠」をもって思考、判断することが重要であり、先に述べた事項を教訓としつつ、今後も自分の「ものさし」をしっかりと持ち続けたいと思います。